もくじ
マグネシウムの概要
マグネシウム(magnesium、Mg)は、骨や歯の形成に必要な栄養素です。特徴必須ミネラルであり、生体に存在するミネラルのうち4番目に多く存在します。
マグネシウムは、多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助けるとともに、血液循環を正常に保つのに必要な栄養素です。マグネシウムやカルシウム、その他のミネラルを補給するサプリメントに配合されているほか、飲料や菓子、ふりかけなど、一般の食品に添加されていることもあります。
マグネシウムの1日摂取目安量と含まれる食品
推奨量:(成人男性)340〜370mg(成人女性)270〜290mg
マグネシウムは筋肉収縮、神経伝達、血液凝固、骨代謝などに関与し、体内の多くの酵素に必須なミネラルです。またカルシウムとのバランスが多くの細胞反応に重要であり、骨や歯の形成や心臓・血管の健康維持に必要です。多く含む食品としては、ナッツ類や魚介類、豆類、野菜、果物、穀物、種、動物性食品、乳製品などです。例としてはアーモンド(310mg/100g)、するめ(170mg/100g)、納豆(100mg/100g)などがあります。
医薬品やサプリメントに使用されるマグネシウム
栄養機能食品の栄養成分のひとつであり、75mgから300mgの含有で「マグネシウムは骨や歯の形成に必要な栄養素です。マグネシウムは、多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助けるとともに、血液循環を正常に保つのに必要な栄養素です。」の表示が可能です。
医療用医薬品では、便秘薬(酸化マグネシウムでは1日2g)、制酸薬(酸化マグネシウムでは0.5〜1g)、栄養剤などに配合されています。
一般用医薬品では、便秘薬、制酸薬、栄養剤、カルシウム剤などに配合されています。
酸化マグネシウムの場合、一般用医薬品では制酸薬として1日最大1gまで、便秘薬として1日最大2gまでの配合が認められています。
マグネシウムは栄養機能食品の栄養素として認められており、1日摂取目安量を満たした商品については、栄養機能表示が認められています。
マグネシウム供給源としての食品素材としてドロマイトが使用されることがありますが、その他に実際に使用できるのは食品添加物に収載されているマグネシウム化合物に限定されています(硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸マグネシウ厶、酸化マグネシウム、塩化マグネシウムなど(いずれも強化剤として))。
医療用医薬品:酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マグラックス、ミルマグ、マグミット錠(協和化学工業)、コンクライト-Mg(ニプロファーマ)
—般用医薬品:スラーリア便秘内服液、新三共胃腸薬
マグネシウムの作用
マグネシウムの効果効能
マグネシウムの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「高血圧、心血管疾患、狭心症、心筋梗塞、不整脈、心臓発作、食欲、悪心、嘔吐、便秘、胃酸分泌、胃食道逆流疾患、神経伝達、神経過敏、抑うつ、妄想、不安、興奮、錯乱、痙攣、昏睡、片頭痛、注意欠陥多動性障害、ADHD、鎮痛、子癇前症、月経前症候群(PMS)、月経困難症、糖尿病、腎臓結石、尿失禁、震え、脱力感、こむらがえり、線維筋痛症、骨量、感覚異常、難聴、喘息、歯の形成不全、慢性疲労症候群(CFS)、高山病」
高血圧、心血管疾患との関連が示唆されており、軽度〜中等度の高血圧の治療に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
冠状動脈疾患を持つ人における狭心症発作の低減に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
便秘時および手術や検査前の下剤として有効です。
胃酸過多、胃食道逆流疾患(GERD)の症状緩和(中和)に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
神経筋肉伝達に働く効果があります。
片頭痛の予防に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
米国では妊娠後期の妊婦や陣痛中の重篤な高血圧を防ぐ薬として用いられていますが、証明はできていません。マダネシウム補給の子癇前症の予防に対する有益性は不明ですが示唆されています。子癇に対する硫酸マグネシゥムの投与は有益です。
2型糖尿病に対する有効性、効果を示唆するコホート研究(追跡調査)報告があります。ラットにおいて、マグネシウムがインスリンによる糖の酸化効果を増強することが確認されているとの報告があります。
マグネシウムの補給でシュウ酸カルシウムの腎臓での形成(腎臓結石)を抑制することが示唆されており、腎結石の再発防止に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
ビタミンDがカルシウム効果を示す際に必要だとみなされています。老人の骨量減少を遅らせるといわれるとの報告があります。
マグネシウムの妊娠中のこむらがえりに対する有効性、効果を示唆する報告があります
マグネシウム摂取は骨粗しょう症に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
重症度の高い急性喘息の人に対するマグネシウム静注は有益である可能性が高いといわれています。
高山病の治療に用いられるとの報告があります。
マグネシウム欠乏による症状
マグネシウムが不足すると、血管壁で痙攣が起きやすくなり、狭心症や心筋梗塞を起こす可能性があります。実際、マグネシウムに対するカルシウムの摂取比が高まるほど心臓発作の死亡リスクが上昇します、
マグネシウム欠乏により、狭心症、不整脈、心筋梗塞、高血圧が起こりやすくなるとの報告があります
利尿薬を投与されていて慢性的にマグネシウム欠乏を起こしている高血圧患者ではマグネシウムの補給で降圧効果があるとの報告があります。
マグネシウム欠乏により食欲不振、悪心、嘔吐を招くといいます。
マグネシウム欠乏により神経過敏症、抑うつ、妄想、不安感、興奮、錯乱、痙攣、昏睡、睡眠障害などを引き起こします。
マグネシウム欠乏により低クエン酸血症を招き、高シュウ酸尿症患者でシュウ酸結石のリスクを上げる、欠乏により腎不全、腎臓結石の報告があります。
マグネシウムが欠乏すると筋肉細胞でのカルシウムとのバランスが崩れ、筋肉の収縮がうまくいかず、痙攣、震え、脱力感、振戦などの症状が出るといいます。
マグネシウムを欠乏すると歯の形成不全を招くといいます。
マグネシウム過剰摂取での副作用・毒性
マグネシウムの副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
マグネシウムを経口で過剰摂取すると下痢、静注で悪心、嘔吐、筋力低下、血圧低下、反射低下、呼吸抑制などが起こります。
高マグネシウム血症は、渴き、低血圧、傾眠、吐き気、嘔吐、精神混乱、筋力低下、呼吸低下、徐脈、昏睡、心臓発作、死に至ることもありますが、腎機能が正常な人ではまれです。
重篤な中毒はマグネシウム含有薬(制酸薬、下剤)などが重篤な腎不全を持つ患者に慢性的に投与された場合に生じます。一方、治療目的で高マグネシウム血症となっても上記以外の患者では、マグネシウムが早く排泄され、それほど危険はありません。
通常の食品に含まれるマグネシウムの摂取だけによる好ましくない影響に関する報告は見当たらず、妊娠中、授乳中においても適切に用いればほぼ安全です。
排出促進薬(利尿薬、アンホテリシンB、シスプラチンなど)との併用はマグネシウム摂取の効果を低下させる可能性があります。
排出抑制薬(カルシトニン、グルカゴン、カリウム保持性利尿薬)との併用はマグネシウム摂取の効果を増大させ、血中濃度を上げる可能性があります。フルオロキノロンとの併用で、同薬の吸収を低下させるおそれがあります。
キノロンはマグネシウム摂取の少なくとも2時間前か、4時間後に服用すること。ジゴキシン、エストロゲン、ループ利尿薬、ぺニシラミンなど、医薬品の中にはマグネシウム濃度に影響を与えるものがあります。
高齢者は低マグネシウム血症になりやすいので注意が必要です。心ブロック患者には静注は禁忌です。
吸収不良(胆汁分泌障害、腸内感染症などさまざまな要因による)の場合、マグネシウムの腸管吸収が低下することがあります。
腎障害を持つ人は注意して使用するようにしましょう。大量の牛乳やカルシウム製剤との併用で、ミルク・アルカリ症候群(高カルシウム血症、高窒素血症、アルカローシス等)が現れるおそれがあるので、観察を十分に行い、このような症状が現れた場合には中止します。
高カルシウム血症、代謝性アルカローシス、腎機能障害のある患者への使用は注意します。
ジギタリス製剤、鉄剤等との併用で、これらの薬剤の吸収・排泄に影響を与えることがあるので、服用間隔をあけるなど注意します。
にがり
にがりは、塩化マグネシウムを主成分とします。独立行政法人国立健康・栄養研究所は、「にがりの痩身効果には確実な根拠・文献などはない」として、過度の期待を抱いたり、過剰に摂取したりしないよう注意を呼びかけています。
にがりの原液を誤って飲まされた施設入所者が、死亡するといろ事故が起きています。また、にがりを大量に摂取した慢性腎障害患者が、著明な高マグネシウム血症を起こし、心停止に至った例(後に回復)も報告されています。
マグネシウムの研究・エビデンス
研究①緩下剤、制酸薬
1966年から1999年に発表された51報の論文をレビューした結果、マグネシウムは緩下剤、制酸薬として長い使用実績があります。
研究②狭心症
疫学調査の結果、狭心症患者は赤血球内のマグネシウム濃度が低い傾向にあった。このような患者9名を対象とした6ヶ月間のオープン試験の結果、マグネシウムサプリメントを摂取したところ、赤血球内濃度が有意に上昇し、発作回数、硝酸塩の使用量が有意に減少しました。
研究③骨密度
1名の閉経後女性が6ヶ月間水酸化マグネシウム125mg/錠を1日に2-6錠摂取、その後2錠を18ヶ月間摂取したところ、22名で骨密度が1-8%増加していました。疫学調査の結果、食事からのマグネシウム摂取量が多いと骨密度が高かったといいます。
研究④糖尿病
米国の35,988名の高齢者女性を対象とした前向きコホート研究(追跡調査)の結果、6年間の追跡で1、141名が糖尿病を発症しましたが、食物繊維などと並んでマグネシウムの摂取量と糖尿病発症リスクには強い負の相関があったといいます。45歳以上の女性39,345名を対象としたコホート研究(追跡調査)でも、年齢、BMIに関わらず、マグネシウム摂取量と糖尿病発症には負の相関が認められたといいます。
研究⑤高血圧
軽症〜中等症の高血圧患者15名を対象とした6週間の二重盲検クロスオーバーRCT(ランダムに比較する臨床試験)の結果、酸化マグネシウムを1日に1g摂取したところ、一部の患者で赤血球内のナトリウム濃度が減少し、血圧が低下しました。しかしマグネシウム摂取に反応性の低い患者もいました。マグネシウムと血圧との関連を調べる目的で、高血圧患者を対象とした14件および正常血圧者を対象とした6件の臨床試験(総被験者数1、220名)をメタアナリシスした結果、マグネシウム10-40mmol/日の摂取によりわずかに血圧が低下し、用量相関性が認められました。マグネシウム摂取と血圧との関係性を確立するためには、より高用量での試験が必要です。高血圧でマダネシウム濃度が正常の人々の血圧に対してマグネシウム補充が与える効果を示す科学的実証は、限定的で相反していることが見出されました。
研究⑥片頭痛
81名の片頭痛患者を対象とした12週間のランダム化比較試験の結果、クエン酸マグネシウムをマグネシウムとして1日600mg摂取したところ、片頭痛発作の頻度、発作期間や薬剤使用量が有意に減少しました。3-17歳で最近4週間に週1回以上の発作があった118名を対象とした16週間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、酸化マグネシウム9mg/kg/日を3回に分けて食事とともに摂取したところ、発作の頻度および症状の重さが有意に改善しました。
研究⑦結石
再発性の結石患者56名が水酸化マグネシウムを最低2年間摂取したところ、45名は一度も結石が形成されず、1年間の平均発症数は摂取前の0.8に比べて0.03であったといています。再発性の結石患者16名に酸化マグネシウム300mgと塩酸ピリドキシン(ビタミンB6)10mgを摂取させた試験の結果、血中のマグネシウム濃度およびマグネシウムの尿中排泄が有意に増加しましたが、シュウ酸の尿中排泄は徐々に減少し、シュウ酸カルシウムのリスク指標が有意に低下しました。
研究⑧月経困難症
1件のランダム化比較試験では、月経困難症に対してアスパラギン酸マグネシウム1日3回摂取が評価され、6か月後プラセボに比べて有意に良好な鎮痛効果をもたらしましたが、この研究は小規模であり、ただちに有効性、効果を示すことはできないといいます。
研究⑨こむらがえり
こむらがえりを訴える73名の妊婦を対象とした3週間のランダム化比較試験の結果、マグネシウムを摂取したところ、摂取前に比べて、またプラセボ群と比較して有意に症状が軽減しました。
研究⑩不整脈
心室性不整脈に対するマグネシウムの使用を支持する根拠はありますが、心房性不整脈に対する使用を支持するものはありません。心肺バイパス術を施行中の患者100例では、プラセボよりもマグネシウムにより術後の心室性律動異常の回数が減少しました。
さまざまな不整脈をもつ患者588例に対する別の研究では、静脈内のマグネシウムが心室性異所性収縮、連結性調律、突発的な心室頻脈を減少させたといいます。
研究⑪高マグネシウム血症の危険性
高マグネシウム血症による死過剰摂取亡が2例報告されています。1例目は28ヶ月の幼児に便秘治療のため酸化マグネシウム800mg/日を経口投与、入院など時には2400mgを数日間服用していた)。もう1例はエプソン塩(ほぼ100%硫酸マグネシウム)で数週間うがい
をしていた女性で入院時までに2箱消費していました。臨床試験において、マグネシウムを摂取した女性では25例中5例が血液循環障害および腸不快感を経験しました。