鉄分の効果効能、過剰摂取での副作用は?欠乏で貧血や抑うつも

鉄分 貧血 抑うつ

鉄(鉄分)の概要

鉄分 概要

鉄(iron,Fe)は、赤血球をつくるのに必要な栄養素です。鉄分やその他のミネラルを補給するサプリメントに配合されているほか、飲料や菓子、ふりかけなど、一般の食品に添加されていることもあります。

日本人の食事摂取基準によると、1日の推奨量(18〜69歳)は男性7.5mg、女性10.5mgとされています(上限は男性50〜55mg、女性40〜45mg)。

赤血球のヘモグロビンや、筋中のミオグロビンと結合し、酸素の運搬や貯蔵に関わります。鉄分の欠乏症は世界的に最もよく見られる栄養失調です。とくに新生児や妊娠期の欠乏は重篤な結果をもたらすことがあり、先進国ではもちろん発展途上国でもその栄養学的重要性が見直されてきています。また、ヘム鉄を関与成分とした特定保健用食品が許可されています。

鉄分を多く含む食品

鉄分を多く含む食品としては、レバー(豚レバー:13mg/100g)、あさり佃煮(18.7mg/100g)、がんもどき(3.6mg/100g)、ほうれん草(2.0mg/100g)などがあります。

肉類は、自然にキレート化されたヘム鉄を多く含みます。植物中の非ヘム鉄は生物学的利用率が乏しく、植物中のシュウ酸、フィチン酸、タンニン酸、バイオフラボノイドはさらに生物学的利用率を減少させます。

フルーツジュースにもいくらかの鉄を含み、ワインには16mg/L以上含まれているものがあります。

栄養機能食品の栄養成分のひとつであり、2.25mgから10mgの含有で、「鉄は、赤血球を作るのに必要な栄養素です」の表示が可能です。ヘム鉄を関与成分とする特定保健用食品(清涼飲料水)に、「鉄の補給を必要とする貧血気味の人に適します」旨の表示が許可されています。
「肝臟によい」といわれるウコンやシジミ、クロレラ、スピルリナなどのサプリメントは、鉄を多く含んでいます。

NASH(非アルコール性脂肪肝炎)などの肝機能障害のある人がこれらのサプリメントを摂取すると、鉄の過剰摂取により、症状を悪化させるおそれがあります。商品によって鉄の含有量は異なるが、鉄が含まれていることを知らずに摂取することも考えられるので、十分な注意が必要です。

鉄を含む医薬品

医療用医薬品では貧血治療薬、栄養剤などに配合されています。一般用医薬品では貧血治療薬、栄養剤、ドリンク剤などに配合されています。ヘム鉄は、「ミネラルの吸収を助ける」特定保健用食品の成分として認められています。

医薬品例

医療用医薬品:フェロミア錠、フェロフィール錠、アトフニン注

—般用医楽品:エミネトン

鉄の作用

■鉄の作用■

鉄のバランスは主に排泄調節(主に胆汁)よりも腸内(とくに十二指腸)で行われる吸収調節によって維持されます。ヒトは0.9〜1.05mg/日を排泄します。出血以外に鉄を失うことはほとんどありません。

ヒトの身体の中で最も豊富な微量元素である鉄は多くの生物に必要とされています。2価鉄(Fe2+)は3価鉄(Fe3+)に酸化され、3価鉄は2価鉄に還元されます。鉄は酸化還元反応の重要な触媒です。鉄はフェリチンまたはへモジデリンに貯蔵されます。

固体では金属か鉄化合物として存在。水溶液中では2価の第一鉄か3価の第二鉄のいずれかの酸化状態をとり、そのことから酸化還元反応の触媒として働くことができます。動物の血液に含まれるヘモグロビンを原料として製造されるヘム鉄は生体内での吸収率が良いです。非ヘム鉄としては硫酸鉄、還元鉄、クエン酸鉄などが用いられます。

鉄(鉄分)の効果効能

鉄分 効果 効能

鉄分の効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。

■鉄分の効果効能一覧■

「貧血、めまい、息切れ、作業能率、食欲、便秘、下痢、胃炎、中枢神経、ストレス、抑うつ、免疫、早産、低出生体重児、胎児死亡、不妊、月経過多、精神活動発達遅延、認知機能、感染、口内炎、体温調節、慢性疲労、鉛中毒」

鉄はヘム鉄を関与成分とし、貧血気味の人に効果があります。

鉄欠乏性の貧血に経口摂取で有効です。

鉄分は中枢神経系の機能に必須です。

妊娠初期の貧血は早期産、低出生体重児、胎児死亡を招くという多くの疫学調査があります。これを防ぐ効果が鉄にあるという報告があります。

鉄は女性の不妊治療および月経過多に経口で効果があるとの報告があります。

鉄は幼児の精神運動発達遅延に関与する、未熟児や双生児は通常より鉄欠乏性貧血が発現しやすいとの報告があります。

鉄欠乏症の小児および思春期の若者における、認知機能(言語習得、記憶など)の向上におそらく有効と考えられます。

鉄分は口内炎に効果があるとの報告があります。

鉄分の欠乏で起こる症状(欠乏症)

鉄 欠乏症

■鉄の欠乏症■
鉄分の欠乏により食欲不振、便秘、下痢、慢性胃炎などを招くとの報告があります。

鉄分欠乏により、貧血を起こし、息切れ・めまい、作業能率が低下します。鉄の欠乏により精神的ストレスと抑うつを招くとの報告があります。

鉄分が欠乏することで免疫適格性が低下します。

鉄分が欠乏すると、感染免疫カ低下を招きます。

鉄分の欠乏により体温調節阻害、慢性疲労、鉛中毒(鉄欠状態で鉛の吸収増加が見られる)を招きます。

鉄欠乏はよくある疾患です。鉄の補給は小児の泣き入りひきつけ(BHS)*を緩和する可能性があります。

10代の少年期(とくに少女)は成長が盛んで鉄必要量が多いことから鉄欠乏症のリスクにさらされています。

小児や閉経前女性で鉄貯蔵量を使い果たした場合、鉄欠乏症を改善するのは時間がかかります。

鉄以外の栄養素が不足することによる貧血患者では、鉄を摂取しても、血中のフェリチン濃度は正常になりますがへモグロビン濃度は上昇させないと考えられており、不足の栄養素の補給が必要です。

鉄の体内利用率と吸収を低下させる要因

食事性鉄欠乏、食事性タンニン、フィチン酸塩、シュウ酸塩、その他のフェノール化合物(不溶性沈殿物からの)、制酸薬、茶(鉄の吸収を60%低下)、コーヒー(鉄の吸収を40%低下)、消化管内通過時間の短縮、吸収不良症候群、無酸症、感染/炎症、月経(女性は1日約0.6mgの鉄を失う)、妊娠・出産・授乳(妊娠、授乳時の鉄の必要量は1〜2.5mg/日増加し、妊娠の後期3カ月間に3〜4mg/日が胎児に移行される)、出血(外傷、献血など)。

鉄分の過剰摂取による副作用・毒性

鉄分 過剰摂取 副作用

鉄分の過剰摂取による副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。

■鉄分の副作用・毒性一覧■
ビタミンEを補給せずに鉄のみを補給された未熟児(低出生体重児)の溶血性貧血、及び疫学的に高濃度の鉄が男性のがん死亡率のリスクをあげるという報告があります。

経口摂取で適切に用いれば、妊娠中、授乳中でもほぼ安全です。小児でも適切に用いれば経口摂取でほぼ安全です。

健常人(妊娠中、授乳中を含む)の1日許容量は45mg、鉄欠乏症患者の治療としては、ほとんどの場合1日300mgまでは安全に摂取できると考えられますが、胃腸障害の可能性は高くなります。出産時にヘモグロビン濃度が高いと正常な分娩に悪影響が出ることがあります。

過剰摂取によりへモシデリン沈着症・血色素症・眼球鉄症、胃腸障害(便秘・吐き気・嘔吐)を招くとの報告があります。

体重1kg当たり30mgで急性中毒を起こします(60kgで1800mg)。60mg/kg以上の急性毒性濃度で嘔吐や下痢が起こり、次いで心臓血管系または代謝系に異常をきたし死に至ることがあります。

鉄中毒(2時間以内に、嘔吐、下痢、腹痛、吐血、無気カ、ショック、アシドーシスが起こる。患者は摂取後2〜12時間は無症候ですが、治療(血液透析、腹膜透析、交換輸血を含む)は遅れてはなりません。12〜48時間では、ショック、てんかん、肺浮腫、アシドーシス、無尿症、高熱を発症し、死に至る可能性もあります。生存者は摂取後2〜6週間で幽門狭窄、前庭部狭窄、肝硕変、中枢神経系損傷が現れる)。

長期間、多量に摂取するとへモシデリン沈着症や多機能不全の原因となります。致死量は体重1kg当たり180-300mgと見られますが、60mg/kgでも死に至るという報告もあります。

鉄の吸収に欠かせない胃酸分泌が抑えられるため、プロトンポンプ阻害薬との併用は、腸管内のpH上昇により鉄吸収を低下させるおそれがあります。しかし、鉄欠乏でない人における長期投与と鉄欠乏症や貧血との相問は認められていません。

無塩酸症の人は、胃内のpHが高いので鉄の吸収が低下するおそれがあります。血液透析患者では摂取した鉄の吸収が低下します。

鉄欠乏性貧血と誤診されたまま、鉄剤を投与すると鉄分過剰の副作用が現われることがあります。

下痢、胃切除、そのほかの吸収不良の状態の患者においては、鉄の経口摂取は無効であると思われます。鉄は、胃潰瘍、腸炎、潰瘍性大腸炎の症状を悪化させるので、これらの患者には禁忌です。

高リスクグループ(幼児・小児・10代、月経のある女性・妊娠・授乳中)に対して補給を推奨することが必要です。

鉄工労働者は呼吸器系腫瘍のリスクが増加しています。鉄の吸引は発癌性がある可能性があります(または発癌物質を運ぶ可能性もある)。

鉄の体内利用率と吸収を増加させる要因

・食事性因子(ビタミンC、果糖、フマル酸塩、リジン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、クエン酸塩は吸収を増加させる)
・アルコール中毒(アルコール性肝硬変は肝中鉄をわずかに増加させる)
・輸血性へモジデリン沈着
・晚発性皮膚ポルフィリン症
・シャントへモクロマトーシス
・スチールまたは鉄の樽で醸造されたアルコール飲料の摂取。
・鉄過剰症
・遺伝性へモクロマトーシス:常染色体劣性遺伝による先天性代謝異常であり、ヨーロッパ白人においてホモ接合頻度0.3〜0.5%、キャリア率10〜15%です。肝硬変、糖尿病、色素沈着過度、疲労、不整脈、心筋症を引き起こし、肝癌のリスクを高める。
・遺伝性鉄芽球性貧血:まれな伴性疾
・遺伝性無トランスフェリン血症:非常にまれです。おそらく常染色体劣性遺伝であり、トランスフェリン合成不能です。
・先天性セルロプラスミン血症:まれな常染色体劣性遺伝性疾患であり。脳、肝、塍に鉄が蓄積します。
・高フェリチン血症を伴う先天性白内障(鉄過剰なしで起こる)。

サプリメントやハーブ、医薬品との相互作用

アルミニウムやカルシウムを含む制酸薬との併用で鉄の吸収が低くなるおそれがあるので、2時間以上間隔をおいて摂取すること。

カルシウムが鉄の吸収を低めるおそれがあるので、鉄欠乏患者はカルシウムサプリメントの摂取を避けること。もしくは2時間以上間隔をおいて摂取すること。

従来、タンニンにより鉄が沈殿することがあるので、含有食品との同時摂取は避ける必要があるとされてきたが、近年はその根拠は乏しいとされています。

大豆タンパクは食品中の非ヘム鉄の吸収率を下げます。

クロラムフェニコールとの同時摂取で鉄治療の反応が遅れることがあります。

エリスロポエチンと経口摂取した鉄との併用で、ヘモグロビン増加が促進されます。

フルオロキノロン系抗生物質やテトラサイクリン系抗生物質、ぺニシラミン、レポチロキシンと併用するとそれらの吸収率を低下させるので、2時間以上間隔をあけて摂取すること。

メチルドーパと併用すると、メチルドーパの吸収を妨げ、代謝を変えるので結果的に血圧が上昇します。摂取は2時間以上あけること。

遊離鉄はビタミンCの存在で吸収率が上がり、ポリフェノールやふすま、コーヒーによって吸収が阻害されます。

アカシアと鉄塩の結合でアカシアが沈殿します。

研究・エビデンス

研究 エビデンス

研究①鉄欠乏症、貧血

70名の成人女性を対象とした12週間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、ヘム鉄500mgあるいは750mgを摂取した群において、赤血球数、ヘモグロビン、へマトクリット、平均赤血球容積、平均赤血球血色素量が有意に増大しました。鉄欠乏症の小児および思春期の若者における認識能向上に有効と考えられます。ヘム鉄は特定保健用食品の審査で、貧血気味のヒトに対する有用性が実証されています。

研究②小赤血球症

胃の手術を受けた女性56名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、術後1ヶ月後から鉄サプリメント320mgを1日2回摂取したところ、手術によって生じる鉄欠乏が予防でき、プラセボ群で減少していたフェリチン濃度に変化は認められなかった。貧血の発症頻度は両群で差がなかったが、小赤血球症の発症がプラセボ群で有意に高かった。

研究③成績向上

鉄欠乏性貧血ではない女子高校生81例に硫酸鉄(650mg,1日2回)を8週間投与。
結果、鉄の状態と言語学習や暗記テストの成績が向上することが観察されました。

研究④運動への適応性改善

鉄が不足しているが貧血でない女性42例に硫酸鉄(100mg/日)を6週間投与。
結果、エアロビクス運動への適応性の改善が観察されました。

研究⑤副作用

すでに鉄剤を投与されている患者に、さらに鉄剤を投与してしまった結果、肝障害、顔面の軽度の色素沈着、血清フェリチン値の高値を示した例が報告されています。また、静脈鉄剤と経口鉄剤との併用で、発熱をみた症例が報告されています。

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