もくじ
ビタミンAの概要
ビタミンA(別名レチノール)(英retinol、retinal、retinoicacid)には、動物性食品に含まれるビタミンAとしてのレチノールと植物性食品に含まれていて体内でビタミンAに変わるカロテンとがあります。
レチノール由来のレチナールは、目の網膜に存在する感光物質(ロドプシン)の成分として、またレチノイン酸はステロイドホルモンと同様に核内の受容体に結合して効果を現す情報伝達物質として諸組織で多彩な役割を果たしています。
ビタミンAとしては、目と粘膜への効果を持ち、がん予防の効果も期待されています。
科学的には、栄養失調により起こる諸症状の改善効果が証明されていることに加え、乳がんリスクの低減効果の可能性が疫学調查により示されており、またヒトで核白内障の予防にも役立つことの証拠が示唆されています。
ビタミンAは、「夜間の視カの維持を助ける栄養素です。ビタミンAは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です」とされています(ただし「妊娠3ヶ月以内または妊娠を希望する女性は過剰摂取にならないよう注意してください」旨の注意喚起表示が必要です)。
アメリカでは「がんは様々な要因によって発症します。低脂肪で果物、野菜(食物繊維、ビタミンA、ビタミンCに富む低脂肪食品)を多く含む食事は、ある種のがんになるリスクを低減するかもしれません」の表示が認められています。
ビタミンAは栄養機能食品の栄養素として認められており、1日摂取目安量を満たした商品については、栄養機能表示が認められています。
多く含む食品としてはレバー類(とりレバー:14000μg/100g)、うなぎ蒲焼き(1500μg/ioog)、銀だら(1500μg/100g))などがあります。
[1日摂取目安量】
上限値:600μg(2,000IU)
下限値:135μg(450IU)
ビタミンAが使われる医薬品
医療用医薬品ではビタミンA製剤、ビタミンAD製剤、肝油などとして、ビタミンA欠乏症(夜盲症、結膜乾燥症、角膜乾燥症、角膜軟化症)や角化性皮膚疾患の治療や予防、ビタミンAの需要が増大し、食事からの摂取が不十分な場合の補給などに用いられます。
—般用医薬品ではビタミンAD製剤、肝油、栄養剤、点眼薬、皮膚治療薬(外用)などに配合されています。
医薬品例
医療用医薬品:チョコラA
一般用医楽品:チョコラAD、カワイ肝油ドロップ
ビタミンAの効果効能
ビタミンAの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「食欲、免疫、生殖、精子、甲状腺、上皮組織、上皮角化、皮膚、髪、乾皮症、ロドプシン、視覚、夜盲症、ドライアイ、味覚、聴覚、細胞分化、形態形成、成長、発育、感染症、白血病、がん、過剩症、催奇形性、白内障」
ビタミンAは甲状腺の機能亢進を抑えるとの報告があります。
ビタミンAは上皮組織の維持に関わり、皮膚や髪の健康を保つ、欠乏すると上皮の角化を亢進する、欠乏すると筋肉・皮膚乾皮症を招く等の報告があります。
慢性尋常性乾癬に対する局所レチノイドは有益である可能性が高い一方、経口レチノイドは有益性と有害性がともに認められます。
ビタミンAは夜盲症、視カ低下を防ぐ効果があると報告されています。
角膜切除術後の回復に対するビタミンAの有効性、効果を示唆する報告があります。
ビタミンAは細胞の増殖分化、形態形成に関わり、成長効果があります。
ビタミンAは粘膜上皮細胞の維持や再生に役立ち、消化器や呼吸器の感染に対する抵抗カを高める効果があるとの報告があります。
経口摂取で乳がんの予防に対するビタミンAの有効性、効果を示唆する報告があります。
ビタミンA類の主な化合物のうち、オール、トランスレチノイン酸と13-シスレチノイン酸は急性骨髄性白血病の抑制や免疫賦活効果が知られています。
ビタミンAは粘膜や上皮組織のがんを抑制する効果が期待できる等の報告があります。
無β‐リポタンパク血症、タンパク欠乏症、糖尿病、甲状腺機能亢進症、発熱、肝臓病、肝臓の症状を伴う嚢胞性線維症などによるビタミンAの貯蔵や輸送に異常がある場合のビタミンAの欠乏症の予防と治療に有効です。
ビタミンAの欠乏による症状
ビタミンAを欠乏すると免疫能低下を起こすとの報告があります。
感覚器味覚の維持に関わり、ビタミンAが欠乏すると味覚異常を引き起こします。
ビタミンAが欠乏すると夜盲症、ドライアイ、結膜炎を起こすとの報告があります。
細胞の増殖分化、形態形成に関わり、成長効果があることで、ビタミンAが欠乏すると成長異常を起こす、欠乏すると胎児の発育異常を起こす等の報告があります。
ビタミンAの潜在欠乏症の子供では、重い感染症にかかる確率が高いといいます。
ビタミンAの欠乏ががんのリスクを高め、十分な摂取は発がんを抑制することがわかっています。
ロドプシンの一部を構成し、視覚機能に関わる網膜細胞の維持と再生に役立つ、聴覚機能に関わっており、欠乏すると、味覚、聴覚、嗅覚に異常をもたらす原因になる等の報告があります。
ビタミンAの吸収を促進するもの:ビタミンEサプリメント、食事中の脂肪。
ビタミンAの吸収を低下させるもの:ミネラルオイル、ネオマイシン、コレスチラミン、オーリスタット。
ビタミンAの血中レベルを低下させるもの:慢性の過剰なアルコール摂取1脂質代謝障害を持つ人では、ビタミンAの吸収が悪くなるので、水混和性のビタミンAを摂取するとよい。消化管感染症や寄生虫によって、経口摂取したビタミンAの吸収が低下することがあります。
ビタミンAの過剰摂取による副作用
ビタミンAのの過剰摂取による副作用などの危険性は以下の通りです。
過剰量の長期摂取はビタミン過剰症を招くおそれがあり、ビタミンA過剰症リスクは特定の1日の摂取量というよりむしろ蓄積に関連します。
ビタミンA過剰摂取は骨密度の低下、骨折のリスク増大との関連を示唆する報告があります。
妊婦に関しては過剰症で胎児の催奇形性のなど危険があるため、日本では許容上限摂取量が1日5,000IUと定められています。過剰に摂取した場合、安全でないと考えられています。
1日10,000IU以上の摂取で、胎児が先天性異常を起こす場合があります。妊娠前期は頭蓋および顔面異常や中枢神経系の異常のような、ビタミンAによる奇形に感受性の危険な期間です。
長期摂取に関しては、子供の場合1日12,000〜600,000IU(2,000〜60,000IU/kg/日)、成人で1日50,000〜1,000,000IU(700IU〜15,000IU/kg/日)を連日摂取した場合に副作用が報告されています。
その症状は頭痛、下痢や嘔吐、禿頭症、発疹、疲労、唇のひび割れ、皮膚の乾燥とかゆみ、肝臓肥大、月経不順、骨と関節の痛み、筋肉痛)など。
急性毒性の症状は、吐き気、嘔吐、めまい、かすみ目、筋肉の機能障害です。
過剰症の4大症状は、催奇形性、肝障害、骨密度低下、中枢神経障害です。
ヒトでの急性毒性では、1ヶ月齢の男児が11日間に1,000,000IUのビタミンAを投与された後死亡した例が知られています。脳脊髄圧上昇を起こします。
肝疾患があると、ビタミン過剰症や肝毒性のリスクが高まります。ビタミンA過剰症は摂取後12時間前後で発病する急性過剰症(急性症)と数ヶ月以上摂取して次第に症状の現れる慢性過剰症(慢性症)とがあります。
急性症状:摂取後数時間〜24時間(約12時間)で現れ、摂取中止後1〜2日後に症状は消失し何ら後遺症を残さないといいます。主症状は小児では急性脳水腫に起因し、嘔吐、不眠、嗜眠、興奮のほか大泉門が膨隆して茸状に膨れあがります。乳幼児ではそのほか吐乳、下痢、不機嫌、不安症状、けいれん、水頭症の報告もあります。髄膜症はみられません。成人では全身倦怠、悪心、嘔吐、腹痛、めまい、運動鈍化が起こり、嗜眠状態となり、その後全身の皮膚が剝離し回復。臨床検査成績としては脳脊髄液圧がやや亢進するほか病的所見はみられず、大泉門膨隆程度と脳圧間に必ずしも平行関係はないといわれ、脳波にも異常なく眼底変化はみられません。急性症は成人にはまれで、大多数が乳幼児です。
慢性症状:主症状は小児では食欲不振、体重増加停止、便秘、不機嫌、不眠、興奮、ときに肝肥大などの一般症状、中枢神経症状としては頭痛、嘔吐、神経過敏、けいれん、複視、斜視、脳圧亢進、脳水腫など、骨症状は四肢の有痛性長管骨腫脹が特徴的で、骨幹が紡錘状に腫脹し、X線で骨膜増殖、尺骨、底骨の限局性皮質性骨肥厚、限局性骨粗鬆症を起こし歩行障害を訴えます。成人では最も著明な症状は全身倦怠です。皮膚症状はまず毛髪乾燥、次いで脱毛、脂漏、そう痒症、尋常性ざ瘡、落屑、口唇乾燥亀裂、口角亀裂、舌縁疼痛、水疱形成など、腹部では肝・脾肥大、リンパ節軽度肥大、泌尿器では尿意頻回など、神経系障害は小児ほど著明でありません。血液では軽い貧血、白血球増多又は減少などが起こるが、血液化学や肝機能検査では著しい障害は認められません。血漿中ビタミンA量が上昇しエステル型よりアルコール型ビタミンAが著しく増量、血清リポイド、アルカリ性ホスファターゼ値が増加処置:摂取中止で容易に治癒しますが、このほかの処置としては下剤服用、必要なら補液を行う(急性症)。出血性素因にはビタミンK使用、罹患肢の固定を行います。
医薬品とビタミンAの相互作用
イオン交換薬(高脂血症治療薬)の服用により、ビタミンAなどの脂溶性ビタミンの吸収阻害が起こることがあるため、長期服用時には補給が必要となることもあります。
エトレチナート(チガソン、角化症治療薬)はビタミンA様作用をもつため、ビタミンA製剤の併用により、ビタミンA過剰症に類似した副作用症状がみられることがあります。ビタミンAの効果が増強されます。ただし、ビタミンAの正常血中濃度には影響を及ぼしません。
トレチノイン(ベサノイド、急性前骨髄球性白血病治療薬)はビタミンAの活性代謝物であるため、ビタミンA製剤の併用により、ビタミンA過剰症と類似した副作用症状がみられることがあります。
タミパロテン(再発・難治性急性前骨髄球性白血病治療薬)はビタミンAと同じレチノイドであるため、ビタミンA製剤の併用により、ビタミンA過剰症と類似した副作用症状がみられることがあります。
コレスチラミン、コレスチポール、その他のコレステロール結合性陰イオン交換樹脂および鉱油はビタミンAの吸収を低下させます。
妊娠前・初期に注意
多量のビタミンAの投与により、先天性奇形が認められています。
医薬品のビタミンA製剤は、妊娠3カ月以内または妊娠を希望する女性に対しては、ビタミンA欠乏症の治療に用いる場合を除いて、服用しないこととされています。
服用する場合も、食品などからの摂取量に留意し、1日5,000 IU未満に留めるなど注意をすることとされています。この時期にサプリメントを使用する場合は、β-カロテンの摂取が推奨されています。
研究・エビデンス
研究①乳がん
33〜60歳の女性83,234名を対象とした前向きコホート研究(追跡調査)の結果、閉経前女性において食事由来のビタミンAの摂取量と乳がん発症リスクの間にはわずかながら負の相関があった。乳がんの家族歴がある閉経前女性ではこの相関がより強く認められた。
研究②角膜
近視による角膜切除術を受けようとしている患者20名を対象としたランダム化比較試験の結果、パルミチン酸レチノール25,000IUとニコチン酸α-トコフェロール230mgを併用したところ、術後の上皮再形成の時間が短縮し、視野のぼやけが少なかった。
研究③慢性尋常性乾癖
複数のランダム化比較試験によれば、局所レチノイド(tanzarotene)はプラセボと比較して、短期間では慢性尋常性乾癖を改善することが認められた。また、経口レチノイドにより、少数の尋常性乾癬患者では消失が得られるという限定的な科学的根拠が見出された。