もくじ
銅の概要
銅(英 copper,Cu)は動植物に不可欠な微量栄養素のひとつです。食事性の欠乏はまれです。
銅は、赤血球の形成を助ける栄養素です。銅は、多くの体内酵素の正常な働きと骨の形成を助ける栄養素です。
ミネラルの補給を目的としたサプリメントなどに用いられます。
一般用医薬品では栄養剤、カルシウム剤、貧血用薬などに配合され、銅クロロフィリンナトリウムは主に胃腸薬に配合されています。
銅は栄養機能食品の栄養素として認められており、1日摂取目安量を満たした商品については、栄養機能表示が認められています。
【1日摂取目安量】
推奨量:(成人男性)0.8mg(成人女性)0.7mg
上限量:(成人男性)10mg(成人女性)10mg
銅を多く含む食品、医薬品
銅を多く含む食品としては、甲殼類、ナッツ、種子、マメ科の植物、榖物、ふすま、レバー、キノコ、トマト、ジャガイモ、バナナ、ブドウ、チョコレートなどがあります。
含有量の例としては、するめ(9.9mg/100g)、牛レバー(9.3mg/100g)、カシューナッツ(1.9mg/100g)などです。また、水も有用な銅の供給源です。
銅を含む医薬品例
医療用医薬品:エンシュアリキッド、メサフィリン、エレメイト注
一般用医薬品:エミネトン、サクロン
エネルギー代謝において重要な酵素
銅の効果効能
銅の効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「貧血、高コレステロール血症、高トリグリセリド、心肥大、心血管系、血圧、動脈硬化、動脈瘤、白血球、免疫カ、生殖能カ、耐糖能低下、脱色、傷の治癒促進、コラーゲン、骨粗しょう症、骨密度、関節炎、発育、骨格、成長」
いくつかの銅酵素は結合組織の機能と形成に働くので結果的に血管の健康維持にも重要です。
銅は動脈硬化や動脈瘤の予防効果に関わる可能性があるとの報告があります。
銅は、鉄の体内利用(セルロプラスミン)や、ヘム合成(5-アミノレブリン酸デヒドラターゼ、フェロケラターゼ)を担う酵素の必須成分であり、銅欠乏による貧血に有効です。
銅タンパク質がヘモグロビン合成に必要であるため、銅欠乏症による貧血に対して有効です。
鉄剤の投与では治らなかった貧血患者に銅を補うと治るケースがあるとの報告があります。
銅は傷の治癒を早める効果があるとの報告があります。
銅はコラーゲンやエラスチンの生成を通して骨粗しょう症予防効果、高齢の女性で血中銅濃度の低さと低骨密度に相関あり、骨関節炎に効果があるとの報告があります。
銅は乳児の成長、脳の発育に必要な栄養素です。
銅の欠乏で起こる症状(欠乏症)
銅の欠乏により貧血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、赤血球寿命の短縮、鉄欠乏を伴う心肥大、心血管系異常などを引き起こします。
急性の銅欠乏では運動することにより血圧が上昇したり、心電図に異常をきたす。
銅の欠乏によりカテコールアミン合成抑制、神経組織において脱ミエリンを起こします。
銅の欠乏により白血球(好中球)減少、免疫カ低下を引き起こします。
銅の欠乏により生殖能カの低下を引き起こします。
銅の欠乏により耐糖能低下を引き起こします。
メラニン色素の生成に関わるため、銅の欠乏により髪や皮膚の脱色を招きます。
鉄が欠乏している幼児では銅が不足すると骨格に異常が出て、骨折や成長阻害を示します。
銅の体内利用率と吸収を低下させる要因
- 亜鉛(過剰摂取は小腸のメタロチオネイン含量を高め、小腸細胞内で銅と結合し、吸収を阻害する)
- 鉄(無機鉄塩の過剰摂取は小腸トランスポーター(輸送体)に対する競合を引き起こす)
- 制酸薬、下痢、セリアック病(本態性の吸収不全症候群)、スプルー(熱帯性の下痢)
欠乏症はまれですが、慢性消化器疾患を伴う高度の栄養障害、銅補給なしの長期完全静脈栄養、極小未熟児等で欠乏症が見られ、小球性低色素性貧血、好中球減少、骨粗しょう症等を呈します。伴性劣性遺伝疾患のMenkes病では全身諸臓器が銅欠乏に陥り、とくに精神運動機能が徐々に荒廃し、小児期初期に死に至ることが多いです。
長期経管栄養、胃切除後のダンピング症候群により、銅欠乏症をきたした例が報告されています
銅の過剰摂取での副作用・毒性
銅の過剰摂取での副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
成人、小児ともに適切に用いれば経口でほぼ安全です。妊娠中、授乳中においても適切に用いればほぼ安全です。
ただし、過剰摂取により肝硬変、消化器の障害、脳の障害、溶血、嘔吐、吐き気等の副作用の可能性があります。
銅摂取の副作用としては胃腸の不調(腹痛、吐き気、下痢、嘔吐)がよく知られています。銅中毒はヒトではまれですが、急性では吐き気、下痢、嘔吐、低血圧、溶血性貧血、冠状動脈虚脱が起こることがあります。
健康な成人の銅の概算致死用量は10〜20gです。胃腸障害は全血中濃度2.87mg/L以上で起こり、肝腎機能障害とショックは全血中濃度7.98mg/L以上で現れます。0.25〜0.5gの硫酸銅(銅の重量比は40%)または30ppmの銅を含む液体の摂取は吐き気、嘔吐、腹痛を引き起こします。硫酸銅1g摂取で腎不全が起こり、死に至ることが報告されています。慢性中毒はウィルソン病で肝と脳に銅が蓄積し機能的形態学的変化をもたらします。
銅の慢性中毒は散発性の発熱、下腹部痛、下痢等があげられます。
幼児の場合、鉄の摂取量が多いと銅の吸収を阻害することがあります。成人においても多量の亜鉛は銅の吸収を妨げ、銅欠乏症になることがあります。
日常的に1500mgのビタミンCを摂取していると銅依存性酵素(セルロプラスミン)活性が著しく低下することがあります。
銅サプリメント摂取はウィルソン病の症状を悪化させ、またペニシラミン療法に影響を与えることがあります。
銅または硫酸銅は金厲味、喱吐(通常緑がかった青色の物質)を引き起こし、しばしば下痢、吐血、メレナ(下血)を生じます。銅の急性毒性症状として、無気カ、横紋筋融解症、腎機能障害、溶血性貧血による低血圧、昏睡があります。
銅を吸い込むと。粘膜刺激または金属ヒューム熱(症状は発熱、悪寒、筋痛、頭痛、倦怠感、喉の渴きを含む)を引き起こします。金属ヒューム熱は産業構造形態の変化のため今日ではまれです。
慢性中毒では緑がかった髪を生じ、キューティクル(表皮、角質など)が損なわれる、肝障害を引き起こすなどの症状が現れます。
テトラサイクリン系抗生物質、ニューキノロン系抗菌剤、セフジニルエチドロン酸ニナトリウムと併用すると、本剤に含まれるケイ酸マグネシウムが経口投与された併用薬剤とキレート化合物を形成し、併用薬剤の吸収を妨げます。このため、併用薬剤の血中濃度が低下し効果を減弱させるおそれがあります。
経口薬剤(ジゴキシン等)と併用すると、本剤に含まれるケイ酸マグネシウムの吸着効果または消化管内体液のpH上昇により、併用薬剤の吸収・排泄に影響を与えることがあるため、併用薬剤の効果が減弱することがあります。
研究・エビデンス
研究①胃腸への影響
60例の女性を対象に、銅の摂取量を段階的に上げながら(硫酸銅0、1、3、5mg/Lの水道水を2週間ずつ摂取させ、各用量の間に硫酸銅を含まない水道水の摂取期間を1週間設けた)試験を行いました。銅は下痢を引き起こさなかったものの、吐き気、腹痛、嘔吐は銅3mg/L以上で発現し有意でしたが、ほとんどの症状はすぐに消失しました。
研究②銅中毒に対する治療
持続的な嘔吐には催吐薬の使用または胃洗浄を行います。活性炭が使用されますが、効果に対するデータはありません。重度の毒性の場合にキレート化剤の使用が勧められますが、効果は十分に証明されていません。