β-カロテンの概要
β-カロテン(英 β‐carotene)は、ビタミンAの前駆体で、ビタミンA源の栄養機能食品の栄養素として認められており、1日摂取目安量を満たした商品については、栄養機能表示が認められています。
【1日摂取目安量】
上限値:7,200μg 下限値:1,620μg
「栄養機能表示」
β-カロテンは、夜間の視カの維持を助ける栄養素です。β-カロテンは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。
カロテノイド、またはβ-カロテンなどとして、サプリメント、飲料などに用いられることがあります。β-カロテンはデユナリエラ(藻類)あるいはニンジン等植物の抽出物として得られるものと、合成品とがあります。
食事性またサプリメントによるカロテノイドは、脂肪細胞や組織に貯蔵されるため、長期間、過剰に摂取しない限り一般的に安全です。しかしながらβ-カロテンとアルコールの同時摂取は肝毒性を生じます。
β-カロテンを多く含む食品
β-カロテンを多く含む食品としては、にんじん(1500μg/100g)、春菊(750μg/100g)、ほうれん草(700μg/100g)などがあります。
法的機能表示栄養機能食品の栄養成分のひとつであり、135μgREから600μgREの含有で、「β‐カロテンは、夜間の視カの維持を助ける栄養素です。カロテンは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。」の表示が可能です。(「妊娠3ヶ月以内または妊娠を希望する女性は過剰摂取にならないよう注意してください。」旨のビタミンAに必要な注意喚起表示は不要です。)
β-カロテンの作用
β-カロテンの効果効能
β-カロテンの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「脳卒中、免疫、紫外線、皮膚、光過敏症、関節炎、喘息、気管支炎、呼吸困難、加齢黄斑変性、活性酸素、がん、心血管疾患」
β-カロテンはビタミンEなどとともにLDL(低比重リポたんぱく)の酸化を防ぐ効果があるとの報告があります。心血管疾患の一次予防に対してβ-カロテンは無効ないしは有害であることを示唆する報告もあります。
β-カロテンには免疫賦活化効果があるといわれています。
β-カロテン経口摂取は光感受性の人の日焼けを防ぐのに有効性、効果を示唆する報告がありますが、皮膚がんのリスク低減には効果がないという報告があります。
β-カロテンは紫外線による皮膚障害を予防する効果がある、光過敏症の治療に使用される等の報告があります。
β-カロテンは経口で加齢黄斑変性症(AMD)を防ぐ効果があること、他の抗酸化ビタミンと亜鉛を組み合わせた場合、加齢黄斑変性症の進行を遅らせるのに対する有効性、効果を示唆する報告があります。
男性の喫煙者で、食事中のβ-カロテンは気管支炎や呼吸困難を予防するのにおそらく有効であろうといわれています。ただし、発がん率の上昇等の示唆もあるので注意が必要です。
β‐カロテンの異性体の混合物の経口摂取で、運動により誘導される喘息の予防に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
β-カロテンは活性酸素(とくに一重項酸素)の消去能を持ちます。
β-カロテンの連続投与によって、口腔がんの前がん症状が減少したとの報告があります。がん発症に対してサプリメント摂取が無効であることを示唆する報告もあります。
β-カロテンに富んだ食事は家族歴やアルコール高摂取などの高リスクの更年期前の女性のリスクを減少させる効果があるという知見がいくつかあります。
血漿中のβ-カロテン濃度が153.25ng/ml以下の男性における前立腺がんのリスク減少はおそらく有効であろうとの報告もありますが、全体としてほとんど効果がないとも考えられます。
β-カロテンの過剰摂取での副作用・毒性
β-カロテンの過剰摂取での副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
β-カロテンは経口で適切に使用する場合、ほぼ安全であるとされています。β‐カロテンは1日最大300mgまで、ほとんどの人で安全です。ただし、それ以上の濃度では柑皮症(肌が黄色になる)などの副作用の原因になる可能性があります。
喫煙する人が経口でβ-カロテンを使用する場合、安全ではない可能性があります。因果関係はないとする研究結果もありますが、毎日20mgを5-8年摂取すると肺がんおよび前立腺がん、脳出血、心臓血管病のリスクを上昇させ、タバコを吸う人のトータルな死亡率を上げる可能性があります。
コレスチラミン、コレスチポール、ミネラルオイル、オーリスタットは血中濃度を低下させる、プロトンポンプ阻害薬の使用によって胃の酸性度が低下すると、β‐カロテンの吸収に影響を与えます。食品のオレストラもβ‐カロテンの吸収を低下させます。
β-カロテンを治療の目的で毎日大量に(50〜100mg)過剰摂取した患者で、カンタキサンチン網膜症が起こる可能性が知られています。ただし、この症状は摂取をやめると徐々に消失します。
また、β-カロテンの過剰摂取は脂肪と皮膚に沈着して、無害な高カロテン血症を引き起こします。
最近までのβ-カロテンの過剰摂取は無害と考えられていました(カロテンは体内で必要な分だけビタミンAに変換されるため、過剰症は特にないと考えられていた)が、霊長類を用いた研究で、エタノールと同時に摂取した多量のβ-カロテンは肝毒性を示すことがわかりました。高用量のβ-カロテンのサプリメントをアルコール常習者が摂取すべきでないといえるでしょう。さらに、一般に、高用量のβ-カロテンのサプリメントは摂取すべきではないともいえるでしょう。カロテンの有効性と生じるリスクの可能性について、これまで報告されているデータを考慮すると、β-カロテンのサプリメント摂取は光線過敏症の症例についてのみ考えるべきです。
研究・エビデンス
研究①β‐カロテンと喘息
運動誘発性喘息患者38名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験において、プラセボ群が運動後の肺活量が15%低下したのに対し、β‐カロテン1日64mgを1週間摂取した群の53%の被験者で喘息症状が予防できたとのことです。
研究②β‐カロテンとがん予防
中国で行われた介入試験では、消化器がんの発生を抑制しました。しかし欧米での介入試験では喫煙経験者の肺がん発生を増加させたことなど否定的な結果もあり、β-カロテンのへビースモーカーに対する20mg/日以上の投与は禁忌であると示唆されています。
研究③β‐カロテンと心臓病
虚血性心疾患リスクの高い患者の長期管理における役割は不明です。経口で摂取した8件のヒト試験(1000人以上のランダム化比較試験)において、心臓病リスクや心臓血管病の死亡率を減少させるのに無効でした。また、心血管疾患の一次予防に対してβ-カロテン補充の効果を示す科学的根拠は見つからず、その有害性を示唆する複数のランダム化比較試験もありました。
研究④β‐カロテンと紅斑
健常人を対象とした12週間のランダム化比較試験の結果、カロテノイドサプリメント1日25mg、あるいはそれに加えてビタミンEサプリメント1日335mgを摂取したところ、紅斑が8週目には有意に減少しました。紅斑の解消はビタミンEとの併用群の方が早かったとのことです。
研究⑤β‐カロテンと加齢黄斑変性(AMD)
375名の進行した加齢黄斑変性(AMD)の患者を対象とし、同じ地域に住む健常人520名を対照群とした比較研究の結果、食事からのカロテノイドの摂取量とAMDの発症リスクとの間に負の相関が認められました。
研究⑥β‐カロテンとがん予防
45歳以上の女性39,678名を対象としたランダム化比較試験の結果、1日50mgのβ‐カロテンサプリメントを2.1年間(中央値)摂取し、2年間追跡したところ、がん発症に対する効果はプラセボ群と同等でした。
研究⑦β‐カロテンとがん予防
40〜84歳の健康な22,071名を対象とした12年間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、β-カロテンサプリメントを1日50mg摂取しても、皮膚がん、基底科学的実証細胞がん、扁平上皮がんの発症リスクに効果は認められなかったとのことです。
研究⑧β‐カロテンと喫煙者の脳内出血のリスク上昇
50〜69歳の喫煙男性28,519名を対象とした8年間の二重盲検ランダム化比較試験で、平均6年間の追跡調査をした結果、サプリメントとしてカロテン1日20ragを摂取したところ、脳内出血のリスクが高まったとのことです。
研究⑨β‐カロテンと喫煙者のがん予防
18,314名の喫煙者あるいは喫煙歴のある人を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の後、中央値で4年間追跡した結果、サプリメントとしてルカロテン1日30mgとレチノール25,000IUを摂取したところ、肺がんの発症率、肺がんによる死亡率がプラセボと比ベて上昇傾向にありました。また他のがんについてはプラセボとの有意差はなかったとのことです。
研究⑩β‐カロテンのハイリスク群への試験
4件は健常人群、4件は喫煙者・心臓病既往者などのハイリスク群の計8件のランダム化比較試験(1000名以上の被験者)において、カロテン投与群が対照群に比較して、全死亡率も循環器死亡率も高かったとのことです。