もくじ
ビタミンEの概要
ビタミンE、別名トコフェロール(tocopherol)は、抗酸化作用により、体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける栄養素です。
ビタミンEを配合したサプリメントも多いです。
ビタミンEは生体内において主要な脂溶性の膜に局在し、リポタンパク質によって各組織に運搬され、その抗酸化能により主として不飽和脂肪酸の過酸化を抑制し、結果として生体膜、タンパク質成分、核酸の損傷を防ぎます。
ビタミンEは欠乏すると神経障害を引き起こすことから重要性が注目されました。動脈硬化、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は脂質過酸化や、酸化変性LDLが密接に関連していることから、ビタミンEに対する関心が高まっています。
ただし錠剤・カプセルで摂取するビタミンEに、食事で摂るのと同じように効果が期待できるかは明確ではありません。
ビタミンEを含む食品・医薬品
ビタミンEを多く含む食品としては、アーモンド(31.2mg/100g)、にじます(5.8mg/100g)、西洋かぼちゃ(5.1mg/100g)などがあります。サラダ油、ナッツ、全粒穀類、種子、卵黄などに多く含まれています。
食品添加物(酸化防止剤、強化剤)としても用いられます。
ビタミンEは食物中では主として7-トコフェロールとして存在します。サラダ油の製造工程では2/3までのビタミンEが破壊されます。
栄養機能食品の栄養成分のひとつであり、2.4mgから150mgの含有で「ビタミンEは抗酸化効果により、体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける栄養素です。」の表示が可能です。
医療用医薬品では、ビタミンE欠乏症の予防および治療、末梢循環障害(間欠性跛行症、動脈硬化症、静脈血栓症、血栓性静脈炎、糖尿病性網膜症、凍瘡、四肢冷感症)、過酸化脂質の増加防止に用いられます。高血圧症や高脂血症の随伴症状、閉塞性動脈硬化症に伴う末梢循環障害に用いられることもあります。
—般用医薬品では、ビタミンE製剤、ビタミンEC製剤、栄養剤、ドリンク剤、点眼薬、外用消炎鎮痛薬、痔疾用薬、皮膚治療薬などに配合されています。
・医療用医薬品:ユベラ
・一般用医薬品:ユべラックス300、ネーブルファイン
ビタミンEは栄養機能食品の栄養素として認められており、1日摂取目安量を満たした商品については、栄養機能表示が認められています。
【1日摂取目安量】
上限値:150mg
下限値:2.4mg
ビタミンEの効果効能
ビタミンEの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「コレステロール、抗酸化、心臓血管疾患、生体膜安定化、子癇前症、神経、免疫、生殖、網膜、貧血、がん、ジスキネジー、前立腺がん、アルツハイマー病、認知症、ハンチントン病、リウマチ、月経前症候群、PMS、乳房痛、出血、精子、受精率、妊娠中毒症、腎臓、ブドウ膜炎、角膜切除、加齢黄斑変性症、溶血、放射線線維症、関節症」
多くの研究はビタミンEやビタミンCが多く含まれている果物や野菜を豊富に含む食事と神経系の慢性疾患の発症率の低下との関連を示しています。
透析患者の貧血の改善に対し、エリスロポエチンとの併用の有効性、効果を示唆する報告があります。
アルツハイマー病の認識機能の衰えを抑制するのに対してビタミンEの有効性、効果を示唆する報告があります。血管性認知症にビタミンCとビタミンEの併用の有効性、効果を示唆する報告があります。
LDL-コレステロールの酸化を抑制する(17mgの添加で効果が認められる)、心臓血管疾患の予防効果が疫学調查などで多数報告されている、133〜267mgでは血小板の粘着が抑制される、67mgの摂取で虚血性心疾患の危険率を有意に減少させる等の報告があります。
ビタミンEの抗酸化効果により生体膜を安定化し、溶血性貧血患者の溶血率を低下させるとの報告があります。
ビタミンCとビタミンEの併用で子癇前症のリスクが減少したという報告があります。
初期のハンチントン病に対して天然ビタミンE摂取の有効性、効果を示唆する報告があります。
ビタミンEの適量の摂取と吸収は、ヒトの神経において神経伝達物質の生成により生ずる多量のフリーラジカルを除き、ミトコンドリアと神経系の軸索膜の保護に不可欠であるとの報告があります。
正常な免疫機能、とくにT-リンパ球の働きにビタミンEが重要な役割を果たすとの報告があります。
ビタミンEは男性ホルモンの生成分泌に関わり、生殖機能を維持するとの報告があり、精子の機能と受精率の向上に、経口でおそらく効果を示すとされています。
月経前症候群(PMS)に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
リウマチ性関節炎の治療の補助としての有効性、効果を示唆する報告があります。
ビタミンEは酸化ダメージから眼の網膜を守る効果があるとの報告があり、ビタミンCとの併用で、ブドウ膜炎における視カの向上、炎症の改善、近視のレーザー治療における角膜切除後の治癒を早めるのに、他の抗酸化ビタミン、亜鉛との併用摂取で、加齢黄斑変性症(AMD)の進行を遅らせるのにおそらく有効と考えられます。
疫学調査ではビタミンEやその他の抗酸化物質の摂取が低いと、ある種のがんのリスクが増すことを示唆している、50mgの補給で前立腺がんのリスクを減少する、67mg以上では大腸がんや口腔咽頭がんのリスクを下げる等の報告があります。サプリメント摂取により膀胱がんの死亡率を下げることを示唆する報告があります。
大規模研究および疫学による前立腺がん予防の知見があります。
ビタミンCとビタミンEの併用摂取で、男性とくに喫煙者ではアテローム性動脈硬化症進行を遅らせる可能性があります。
動物実験で重金属やフリーラジカルを産生する肝毒素、酸化による損傷を引き起こす色々な薬剤に対して保護効果を示すとの報告があります。
ビタミンEの欠乏で起こる症状
ビタミンEの欠乏の徴候と症状は、脊髄小脳性運動失調症、骨格筋ミオパチー、網膜の色素変性症、反射の減少・消失と進行性末梢神経障害などが挙げられます。
イオン交換薬(高脂血症治療薬)の服用により、ビタミンEなどの脂溶性ビタミンの吸収阻害が起こることがあるため、長期服用時には補給が必要となることもあります。
ビタミンEは造血ビタミンとしての役割を持ち、欠乏すると貧血を起こします。
疫学調査ではビタミンEやその他の抗酸化物質の摂取が低いと、動脈硬化症のリスクが増すことを示唆しているとの報告があります。
ビタミンE欠乏により深部感覚障害・小脳失調が起き、結局は腱反射の損失や平衡と調和運動の変調などを来たします。とくに乳児期ではこの神経障害は深刻な影響を及ぼします。
ビタミンEが欠乏すると不妊や流産のリスクが高まります。
ビタミンEが欠乏すると新生児貧血、幼児の溶血性貧血を起こしますが、欠乏症の低出生体重児の溶血性貧血に対して、おそらく無効であろうとされています。
ビタミンEの過剰摂取による副作用・毒性
ビタミンEの過剰摂取による副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
ビタミンEは他の脂溶性ビタミンに比べると経口投与で比較的毒性がないといわれています。
経口で、まれに副作用を起こす場合があります。吐き気、下痢、腸のさしこみ、疲労、衰弱、頭痛、視カ障害、発疹、生殖腺機能障害、クレアチン尿などの副作用が報告されていますが、経口で適切に使用する場合、ほぼ安全です。
1日1200mg以上のビタミンE過剰投与はビタミンKの代謝を妨害し、クマジンのような薬の抗凝固性効果を増長すると考えられます。
推奨される1日の許容上限摂取量は1000mg、合成ビタミンEなら1100IU、天然型なら1500IUです。
妊娠中は経口で適切に摂取する場合、ほぼ安全です。
子癇前症(妊娠中毒症)のリスクのある妊婦に18-22週から400IUのビタミンEを経口投与した場合、また妊娠後期の2ヶ月間毎日600-900IUを摂取した場合、副効果は報告されなかったといいます。
授乳中のビタミンEの経口摂取は適切に摂取する場合、ほぼ安全です。
高齢者がビタミンEを反復摂取すると呼吸器系の感染症にかかりやすくなる可能性があります。60歳以上の652名のヒトでビタミンEを200mg摂取(15ヶ月)した試験で呼吸器系感染症が増加しました。
抗凝血効果のあるハーブやサプリメント、抗凝固薬、血小板凝集阻害薬、がんの化学療法剤、硝酸塩(ニトログリセリンなど)、ワルファリンなどの併用は注意するか、避けるべきです。
コレスチラミンなどの医薬品、ミネラルオイル、エタノール、食事中の脂肪などはビタミンEの吸収や血中濃度に影響を与えることが考えられます。
ビタミンK欠乏症の人が摂取すると、凝血効果が悪化するおそれがあるので、注意して使用するようにしましょう。
ビタミンEの効果が見られた研究・エビデンス
研究①遅発性ジスキネジー
遅発性ジスキネジー(精神疾患治療薬の長期使用によって起こる持続性不随意運動)に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
遅発性ジスキネジー患者40名を対象とした36週間のランダム化比較試験の結果、ビタミンEを1、600IU摂取したところ、異常な不随意運動を図る指標(abnormal involuntary movement scale)において摂取10週目以降プラセボ群と有意差が認められたといいます。
35名の患者を対象とした2ヶ月間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、ビタミンE800IUを1日2回摂取したところ有意にジスキネジーが抑えられました。
研究②加齢黄斑変性
加齢黄斑変性患者3,640名を対象としたランダム化比較試験の結果、抗酸化物質(ビタミンC500mg、ビタミンE400IU、β‐カロテン15mg)と亜給80mgを併用摂取したところ、ハイリスクグループにおける症状の進行を有意に抑えました。
研究③アルツハイマー
中等度のアルツハイマー患者341名を対象とした2年間の二重盲検ランダム化比較試験の結果:、ビタミンEを1日2,000IU摂取したところ、症状の進行が有意に抑えられました。一方、769名を対象とした3年間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、ビタミンEを1日1、000IU摂取しても、アルツハイマーあるいはその疑いのある症状の発症率はブラセボ群と有意差がなかったという報告もあります。
研究④人工透析
小児の人工透析患者10名を対象とした試験の結果、エリスロボエチン単独で赤血球の酸化ストレスが認められた後にビタミンE15mg/kgを経口摂取したところ、併用しなかった場合に比べて酸化ストレスが有意に改善し、エリスロポエチンの治療効果が向上しました。42名の成人患者を対象とした試験でも同様の効果が認められ、エリスロポエチンの使用量を減らすことができました。
研究⑤膀胱がん
552名を対象とした前向きコホート研究(追跡調査)における16年間の追跡の結果、ビタミンEサプリメントを10年以上摂取した人は膀胱がんによる死亡率が有意に低かったが、10年以下では有意差は認められなかったといいます。
研究⑥認知症
71〜93歳の3,385名を対象としたコホート研究(追跡調査)の結果、サプリメントとしてビタミンCとビタミンEを併用摂取すると、血管性認知症、混合型認知症の予防に効果が認められましたが、アルツハイマー型認知症には効栗がなかったといいます。
研究⑦ハンチントン病
73名のハンチントン病患者を対象とした二重肓検ランダム化比較試験の結果、天然型ビタミンEを高用量摂取したところ、発症して間もない患者で神経症状が改善されることが、事後解析で認められました。
研究⑧パーキンソン病
800名のパーキンソン病患者を対象としたランダム化比較試験の結果、ビタミンEの効果は認められず、治療薬デプレニルとの相乗効果もなかったですが、パーキンソン病患者31名を含む5,342名を対象とした断面調査の結果、食事由来のビタミンE摂取量が多いとパーキンソン病の発症が少なかったという研究もあります。
研究⑨不妊症
体外受精プログラムのー環として、正常精子性不妊症患者15名を対象とした3ヶ月間の試験において、α-トコフェロールを1日200mg摂取したところ、1カ月後に受精率が有意に向上しました。男性の不妊症患者30名を対象とした3ヶ月間のランダム化比較試験(二重盲検、クロスオーバー)の結果、ビタミンEを1日600mg摂取したところ、精子の機能向上が試験管内で確認されました。
研究⑩PMS
PMSに悩む女性46名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、3月経周期の間α-トコフェロールを400IU摂取したところ、ある種の精神的、身体的症状が有意に改善しました。
また、良性の乳房疾患を持つ女性75名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、α-トコフェロールを150〜600IU摂取したところ、PMSの症状が有意に改善しました。
研究⑪慢性関節リウマチ
402名の慢性関節リウマチ患者を対象とした12週間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、ビタミンE600mgを1日2回摂取したところ、炎症に関してはプラセボとの差が認められなかったですが、痛みに関しては有意に改善しました。
効果がなかったとするエビデンス・研究
研究①循環器、脳卒中
ビタミンEをサプリメントとして摂取した1000名以上のランダム化比較試験7件(健常人集団2件、喫煙者、心臓病既往者など高リスク集団5件)において、全死亡率、循環器死亡率、脳卒中死亡率とも、対照群と差異はなかったという研究があります。
研究②がん
悪性新生物・男性喫煙者の肺がん、膵臓がんの予防に、おそらく無効と考えられます。乳がんの予防に、食事由来、サプリメントともにほぼ無効、大腸ポリープの進行、大腸がんの予防に無効であることを示唆する研究があります。
研究③喫煙者の酸化ストレス減少
男性喫煙者を対象にした5〜8年間の大規模比較研究で、合成ビタミンEサプリメント50mgを毎日摂取したプラセボとの間で肺がんと診断される人数に差がなかった。ビタミンEサプリメントはLDLの酸化を防ぐのには効果があったが、関連する多形核白血球の働きには効果が見られなかった。
研究④月経困難症
月経困難症に対する有益性を検討した複数のランダム化比較試験は小規模であったため、有効性、効果を示す科学的根拠は得られなかった。
研究⑤心臓血管疾患
1件のランダム化比較試験によると、ビタミンE投与は糖尿病における心臓血管疾患の罹病率または死亡率に対する効果はなかった。
研究⑥ほてり
120名の乳がん生存者を対象とした4週間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、ビタミンEを1日800IU摂取してもほてりに対する明確な効果は認められなかった。
研究⑦大腸腺腫、ポリープ
大腸がんと診断された30〜62歳の444名を対象としたケースコントロール研究では、ビタミンEをサプリメントとして摂取すると、大腸がんリスクが低減するとされていますが、864名を対象とした4年間のランダム化比較試験の結果、サプリメントとして1日にビタミンE400mgとビタミンC、あるいはさらにβ-カロテン25mgを加えて摂取しても、大腸腺腫の発生に対して効果は認められず、ポリープの予防効果もなかったビタミンCとビタミンEのサプリメントを組み合わせて摂取した場合の、大腸ポリープの進行に対する効果を調べた6件の試験をレビューした結果、有意な効果は認められなかった。
研究⑧変形性関節症
77名の変形性関節症患者を対象とした6ヶ月間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、ビタミンEサプリメントを1日500IU摂取しても、レントゲン所見、運動スコア、抗炎症薬の使用量などで示される症状の改善に有効性、効果は認められなかった。
研究⑨乳がん
女性56,837名を対象とした前向きコホート研究(追跡調査)において、6年間の追跡中に乳がんを発症した519名と発症しなかった1,182名を比較したところ、ビタミンE摂取量の乳がん発症リスクに対する影響は認められなかった。がんを発症していない34〜59歳の女性89、494名を対象とした前向き研究でも、同様の結果が得られている。
研究⑩がん
血管疾患あるいは糖尿病の患者9,541名を対象とした4年間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、サプリメントとしてビタミンEを1日400IU摂取したとても、がんの発症リスク、がんによる死亡率の低減に対して効果は認められなかった。がんを発症してない人がビタミンCとビタミンEのサプリメントを組み合わせて摂取した3件の大規模な臨床試験をレビューした結果、がんによる死亡に対しては有意な効果は見られなかった。