バリンの概要
バリン(valine)は必須アミノ酸のひとつですが、含有する食物が多いため、通常欠乏することは少ないアミノ酸です。バリンは必須アミノ酸のBCAA(分岐鎖アミノ酸)です。他にはロイシンとイソロイシンがあります。
ロイシン、イソロイシンとともに分岐鎖アミノ酸としてスポーツやフィットネス栄養の観点から注目度が高いです。Fisher比を規定するアミノ酸のひとつです。
食品中では、タンパク質を含むほとんどの食物に含まれ、タンパク質の構成アミノ酸として、ほんまぐろ赤身(1400mg/100g)、牛・豚レバー(1200mg/100g)、とり胸肉皮なし(1200mg/100g)などに特に多く含まれます。
医療用医薬品ではアミノ酸製剤、栄養剤などに配合されています。一般用医薬品では滋養強壮薬、ドリンク剤などに配合されています。アミノ酸の補給を目的としたサプリメント、飲料などにも用いられています。食品添加物(調味料、強化剤)として用いられることもあります。
分岐鎖アミノ酸(BCAA)の混合物が食欲を増進するという限られたエビデンスがあります。バリンの補給はうつ症状の発症リスクを増す可能性もあります。
バリンを含む製品
リーバクト顆粒(味の素・味の素ファルマ)
キドミン(大塚製薬工場)
アミノレバンEN(大塚製薬工場)
アニマリンL錠(大正製薬)
バリンの効果効能
バリンの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「肝性脳症、集中カ、肝臓、オーバートレーニング、免疫力、筋肉、筋萎縮性側索硬化症、ALS、筋肉疲労、筋肉衰弱、ホルモン分泌、エネルギー、成長、運動能力」
バリンは血液中の窒素バランスを調節するとの報告があります。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)の投与は芳香族アミノ酸の血管脳関門の通過を抑制するため、肝性脳症の症状改善に役立つとの報告があります。慢性の肝性脳症に対して、有効性、効果を示唆する報告があります。
バリンは集中カ向上に効果があるとの報告があります。
バリンはロイシン、イソロイシンなどとともに分岐鎖アミノ酸としてスポーツ時に摂取することで、オーバートレーニング時の血漿中のグルタミン酸塩の減少による免疫力低下を抑制する効果があるとの報告があります。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)の投与は肝不全の患者の栄養管理に有効であり、潜在性の肝性脳症の長期治療に有効である、肝機能を強化するとの報告があります。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)は筋肉や心臓、脳、肝臓そしておそらく他の組織が直接利用しうる有効なエネルギー源であり、分岐鎖アミノ酸の投与により、筋肉タンパク質の分解が減少する、比較的強度の高い運動に対して分岐鎖アミノ酸はホルモン分泌を変化させ、運動中の筋肉タンパク質分解を抑制する、筋肉を強化する等の報告があります。運動中の筋肉衰弱を低減する目的に対して有効性、効果を示唆する報告があります。
大部分のBCAA(分岐鎖アミノ酸)は骨格筋で代謝され、その窒素はグルタミン及びアラニンとして放出されます。BCAA(分岐鎖アミノ酸)がトレーニング時にパフォーマンスをあげる、あるいは筋肉量を増すといった事象については、今のところ確たる証拠はないが効果が期待されるとの報告があります。
バリンは成長に関与する、成長を促進する効果がある等の報告があります。
バリンの運動能力を高める目的に対して、無効であることを示唆する報告もあります。
バリンの副作用・毒性
バリンの副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
バリンは、ロイシン、イソロイシンとともにBCAA(分岐鎖アミノ酸)に分類されますが、経口は短期間、適切に用いればおそらく安全だとされています。
ただし、バリン摂取はうつ症状を増大する可能性が指摘されています。
臨床試験では1、2週間〜6ヶ月まで安全に摂取できたとの報告があります。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)のどれかを多く摂りすぎるとかえって体重の減少を招く可能性が指摘されています。
理論的には、分岐鎖アミノ酸とレポドパ(L-ドーパ)の併用で、小腸と脳におけるレポドパの輸送と競合し、効果を弱めることが考えられます。
ハーブやサプリメント、食品とバリンの相互作用は報告されていません。
バリンの研究・エビデンス
研究①慢性肝性脳症
多施設の64名の慢性肝性脳症患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、BCAA(分岐鎖アミノ酸)を0.24g/kg/日摂取した群は、3カ月後に門脈大循環性脳症の指標が有意に改善しました。
研究②肝硬変・潜伏性脳症
安定性の肝硬変と潜伏性脳症を持つ患者17名を対象とした、8週間のクロスオーバー試験の結果、分岐鎖アミノ酸摂取群は精神運動性の障害が改善し、自動車の運転能力が向上しました。肝硬変と潜伏性脳症を持つ患者22名を対象とした1週間のクロスオーバー試験の結果、分岐鎖アミノ酸を0.25g/kg/日摂取した群は、精神運動機能、注意カ、実用的知能が改善しました。
研究③運動能力
7名の自転車選手が参加した試験において、サイクルエルゴメーターを用いた運動時にBCAA(分岐鎖アミノ酸)を摂取しても、摂取しない場合と比べて運動能力に有意差が認められなかったといいます。
研究④うつ症状の増大
バリン摂取はうつ症状を増大する可能性があります。
バリンは血液脳関門でのトリプトファン輸送を阻害し、そのため脳のセロトニン[5-ヒドロキシトリプトファン(5-HT)]が減少するといわれています。健常者に対するパリン(30g)の1回投与は投与1時間後にフェンフルラミン(5-HT遊離促進薬)に対するプロラクチンの反応を有意に低下させたといいます。
また、治療を受けているうつ病患者で、症状もなく軽快した12例にバリン(30g)を投与したところ、4例に一過性のうつ症状が発現しましたが、全例とも選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を服用していたとのことです。