アルギニンの概要
アルギニン(arginine)はアミノ酸の補給を目的としたサプリメント、飲料などにも用いられています。食品添加物(調味料、強化剤)として用いられることもあります。
毒性の少ないアミノ酸であり、一酸化窒素を増加させ、高用量で血管拡張作用を示します。
非必須アミノ酸ですが、食事からの摂取が重要です(とくに代謝の状態で)。食事からのアルギニン摂取が不足すると、体内での合成が亢進することはないため、食事はアルギニンの血漿濃度に大きく影響します。アルギニンは主に肝で合成されますが、腎でも生成されます。
アルギニンは一酸化窒素(NO)の前駆体として働き、NOは血管拡張効果や神経伝達の役割をもつ重要な情報伝達物質です。ヒト蛋白質中に存在するアミノ酸はすべて食品として認められています。
医療用医薬品ではアミノ酸製剤、栄養剤などに配合されています。一般用医薬品では滋養強壮薬、ドリンク剤などに配合されています。
—般用医薬品:アニマリンL錠、キューピーコーワゴールドA
アルギニンの作用メカニズム
アルギニンの効果効能
アルギニンの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「高血圧、血流、狭心症、心血管疾患、間欠性跟行、成長ホルモン、腸管運動、認知症、脾液分泌、免疫力、術後回復、精子、ED、勃起不全、不妊、糖尿病、アシドーシス、腎臓、筋肉、結合組織、かぜ、乳がん、運動能力」
アルギニンから生成する一酸化窒素が、血圧と血流の調節に関与します。
うっ血性心不全に対して、従来の治療法との組み合わせによるアルギニンの有効性、効果を示唆する報告があります。狭心症に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
間欠性跛行の症状改善に対するアルギニンの有効性、効果を示唆する報告があります。
アルギニンは高血圧、心血管疾患に対して経口で効果があるとの報告があります。
アルギニンから生成する一酸化窒素が腸管運動と塍液分泌の神経性調節に関与します。
アルギニンの成長ホルモンの効果により、人を精神的に強化する働きがある、老人性認知症に対して用いられる等の報告があります。
アルギニンは免疫反応で重要な役割を果たします。正確な機序はまだ不明ですが、アルギニンから生成する一酸化窒素がマクロ免疫系ファージの貪食能に関与し、マクロファージとリンパ球の接着と活性化の相互作用の調節にも関わっているためと考えられます。免疫反応を助けるので、病気にかかりにくく、傷の回復の早い体にする効果があるとの報告があります。
アルギニンは男子の精子数を増加させる、男性の不妊症に用いられる等の報告がありますが、ED(勃起不全)に対する有益性も示唆されています。
アルギニンはタンパク質への非酵素的糖鎖の付加を抑制し、糖尿病の膵臓などへの弊害を防ぐ可能性があるとの報告があります。
代謝性アシドーシスに対してアルギニンを静注で用いられる、脂肪代謝を促進する等の報告があります。
アルギニンは尿の合成に関与するとの報告があります。
アルギニンは成長ホルモンの分泌を促進する効果があるので、筋肉組織を強くする、結合組織を強化すると考えられています。
アルギニンは脳下垂体を正常に機能させ、成長ホルモンの合成を促進する効果がある、成長ホルモン欠乏症の診断に静注で用いられるとの報告があります。
アルギニンから生成する一酸化窒素が、高度の認知機能の発達に関与するとの報告があります。
アルギニンはかぜの予防に効果があるとの報告があります。
乳がんにおける化学療法の補助剤としてアルギニンが用いられるとの報告があります。
アルギニンは運動能力を高める目的で経口摂取されるとの報告があります
アルギニン欠乏症
アルギニン欠乏症では血漿中アンモニアおよびオロチン酸の尿中排泄が増加します。
アミノ酸代謝において異化反応が進みすぎると、アルギニンは一定の条件つきで必須アミノ酸となります。そのメカニズムは、食事からの摂取量の低下、吸収率の低下、分解反応の亢進および腸内シトルリン合成の減少などが考えられます。シトルリンが不足すると生体内の尿素サイクル(アンモニア処理機構)におけるアルギニンの再生が円滑に進まなくなります。
先天性代謝障害であるアルギナーゼ欠損は。新生児期以降の神経症状の原因となります。この場合、出生後数カ月間は、アルギニンを含有しないように加工した食事を摂取させなければなりません。
アルギニンの過剰摂取での副作用・毒性
アルギニンの過剰摂取での副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
アルギニンは過剰摂取をすると肌の荒れ、皮膚が厚くなる、関節肥大、骨の奇形、成長期の子供にアルギニンを与えすぎると巨人症になる等の副作用の報告があります。
アルギニンの他の副作用としては、腹痛、鼓腸、下痢などが報告されています。
アルギニンのアレルギーに関しては、アレルゲンに対する応答、すなわち顔および手の発赤や腫れ、目の充血、鼻閉塞、頻脈、発汗、窒息などの発生を示した動物実験、また喘息が増悪する可能性を示す報告があります。
アルギニンはヘルペス、統合失調症(精神分裂病)、腎機能障害、肢端チアノーゼ、鎌状赤血球貧血、アレルギー体質、喘息に悪影響を及ぼす可能性があります。
理論的には降圧薬や硝酸塩とアルギニンの併用で、低血圧が起きる可能性があるので、注意して使用するようにしましょう。シルデナフィル(バイアグラ)との併用で、理論的には低血圧が起きる可能性があります。
キシリトールとアルギニンの併用で、グルカゴン反応を低減させる可能性があります。腎不全患者の高カリウム血症は、アルギニンの静脈内投与によって引き起こされる可能性があります。血液透析を受けていた15歳の男性患者が1.5gのL-アルギニンを誤って経口摂取しましたが、症状は現れませんでした。しかし血清カリウム濃度が摂取1時間後の5.4mmolから2時間後には6.1mmol(基準値3.5〜5.5mmol/L)に上昇しました。カリウム濃度は硫酸ポリスチレンナトリウムにより正常に戻りました。
アルギニンを誤って過剰摂取した生後21カ月の幼児が死亡した例も報告されています。
研究・エビデンス
研究①ED(勃起不全)
機能性のED(勃起不全)患者において性機能が自覚的に改善したという研究例がありますが、他のランダム化比較試験では小規模なED(勃起不全)に対してプラセボより有効であるという科学的実証は見つからなかった例もあるといいます。
研究②狭心症
症状が安定している狭心症クラス2-3の外来患者36名を対象として、2週間の二重盲検クロスオーバーRCT(ランダムに比較する臨床試験)を行った結果、アルギニン強化食品を摂取した場合、血管拡張による血流量増加、トレッドミル運動耐性、QOLスコアの改善が見られました。安定性の狭心症を持ち、心筋梗塞が治癒した患者22名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、アルギニン1日6gを3日間摂取したところ、運動耐性が改善しました。
研究③冠動脈疾患
冠動脈疾患患者30名を対象とした1ヶ月間のクロスオーバーRCT(ランダムに比較する臨床試験)の結果、アルギニンを1日9g摂取しても、一酸化窒素に対する影響、細胞接着能、科学的実証血管拡張などの指標に効果は認められなかったとのことです。
研究④うっ血性心不全
15名のうっ血性心不全患者を対象とした6週間の二重盲検クロスオーバーRCT(ランダムに比較する臨床試験)の結果、アルギニンを1日に5.6-12.6g摂取したところ、運動後の血流量、一定時間内の歩行距離などが改善しました。
研究⑤運動効果
重篤な患者40名を対象としたランダム化比較試験の結果、アルギニン1日8g摂取は定期的な運動と同等の効果があり、両者を組み合わせた場合、相加効果が認められました。
研究⑥跛行
間欠性跛行の患者39名を対象とした3週間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、アルギニン8gを1日2回使用した群は、痛みを感じずに歩ける距離と総歩行距離が、プロスタグランジンを140μgずつ1日2回使用した群と同等でした。