トリプトファンの概要
トリプトファン(tryptophan)は必須アミノ酸で、種々の食品に含まれますがその含量は低いです。主に糖類を原料として、発酵法で製造されます。
トリプトファンだけを過剰摂取すると肝臓障害や脳症などの問題が生じます。分岐鎖アミノ酸といわれるバリン、ロイシン、イソロイシンを同時に摂取する必要があります。
トリプトファンを多く含む食品としては、タンパク質を含む多くの食物です。タンパク質の構成アミノ酸として、プロセスチーズ(290mg/100g)、とり胸肉皮なし(280mg/100g)、鶏卵(190mg/100g)などがあります。
栄養補助剤としてトリプトファンを摂る場合は、ビタミンB群とナイアシンとー緒に摂ることがー番効果的です。
医療用医薬品ではアミノ酸製剤、栄養剤などに配合されています。一般用医薬品では滋養強壮薬、ドリンク剤などに配合されています。食品添加物(調味料、強化剤)として用いられることもあります。
トリプトファンの医薬品例
医療用医薬品:アミノレバンEN
一般用医薬品:アニマリンL錠
トリプトファンの作用
タンパク質の構成のほか、脳内物質であるセロトニン、メラトニンなどのインドールアミン、またナイアシンの前駆体として利用されます。
トリプトファンの効果効能
トリプトファンの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「老化、心臓病、鎮静、催眠、精神安定、時差ぼけ、免疫力、がん、行動障害、学習能力、抑うつ、注意欠陥多動性障害、ADHD、チック、月経前症候群、PMS、筋膜痛、禁煙補助薬、運動能力」
トリプトファンからセロトニンを経て生合成されるメラトニンは加齢の遅延、心臓病の予防に効果があるとされているとの報告があります。
トリプトファンが脳に運ばれビタミンB6、ナイアシン、マグネシウムとともに鎮静、催眠、精神安定などの効果のあるセロトニンをつくるとの研究があります。
トリプトファンからセロトニンを経てメラトニンも合成されます。メラトニンは天然の睡眠薬で時差ぼけに効果がある、トリプトファンを多く摂取すると脳内のセロトニンが増えるとされています。
トリプトファンはドーパミンやノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を作る際にチロシンとともに働くとの報告があります。
トリプトファンの摂取で脳や行動障害の治療に役立つことがわかっています。アメリカ、オハイオ州立大学の研究によれば、学習能力に問題のある子供たちによい結果をもたらした等の報告があります。
トリプトファンが欠乏すると抑うつになりやすくなり、抑うつの治療に用いられます。
トリプトファンは注意欠陥多動性障害(ADHD)に用いられる、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群(チックの一型、反響言語と汚言を伴う運動失調症)に用いられる等の報告があります。
トリプトファンの月経前症候群(PMS)に対して有効性、効果を示唆する報告があります。
トリプトファンからセロトニンを経て合成されるメラトニンは免疫系に働きかけ、がんの予防に効果があるとされているとの報告があります。
トリプトファンの禁煙補助薬としての有効性、効果を示唆する報告があります。
トリプトファンの副作用・毒性
トリプトファンの副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
トリプトファンの副作用としては経口で吐き気、頭痛、ふらつき、口渴、かすみ目、運動失調、傾眠があげられています。
肝硬変の患者で長期にトリプトファンを摂ると脳内にトリプトファンが増え、セロトニンが過剰になり脳の機能が低下して昏睡状態に陥ります(肝性脳症)。この副作用を打ち消す働きをするのが、分岐鎖アミノ酸といわれるバリン、ロイシン、イソロイシンです。
ラットによる実験で、トリプトファンは過剰摂取により肝臓の脂肪に変化をもたらし、肝硬変を招きました。
1989年米国でトリプトファン摂取により1500例以上のEMSおよび37人の死亡例が見られました。ただし、これは製品に混在する不純物によるものとの見解も示唆されています。
鎮静効果のあるハーブやサプリメント、医薬品とトリプトファンの併用で、理論的にはその効果や副作用を増強することが考えられます。
トリプトファンをフェノチアジンやべンゾジアゼピンと同時あるいは後に摂取した場合、ときに性的衝動、可逆性ジスキネジー(運動異常)、可逆性のパーキンソン病様硬直が起こることがあります。
30-90mg/kgのトリプトファン摂取で多幸感が起きることがあります。
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬とトリプトファンの併用で、クローヌス(急激で反復的な筋肉の攣縮)、筋肉の痙攣、起立性低血圧、反射冗進、せん妄、アルコール中毒様症状が起こることがあります。
研究・エビデンス
研究①PMS(月経前症候群)
PMSを持つ女性71名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、排卵日から月経3日目までの17日間トリプトファンを1日6g、3月経周期摂取したところ、プラセボ群と比べて不快、気分の変調、イライラなどのヒトでの症状が改善しました。
研究②禁煙
31名を対象としたランダム化比較試験の結果、従来の禁煙法に加えてトリプトファン50mg/kgと高炭水化物食を組み合わせて摂取した群は、プラセボ群と比べて、完全に禁煙できなかった人でも1日に吸う本数が有意に減り、不安や禁断症状が軽減しました。
研究③うつ病
季節性気分障害患者13例(女性11例)に対してトリプトファン4週間投与と光治療2週間を比較した結果、両方の治療とも、改訂版ハミルトンうつ病スコアを改善しました。4例はどちらの治療も有効でなく、4例は光治療に、また1例はトリプトファン投与にのみ反応しました。
研究④PMS(月経前症候群)
PMS(月経前症候群患者)71例にL-トリプトファン(6g/日)を月経周期の後半(および月経の最初の3日間)から投与し効果を調べました。その結果:63例が試験を完了し、プラセボと比較して、L-トリプトファンは不快症状(発汗異常、気分が不安定、緊張、イライラ感)を改善しました。試験開始時と比較して最大黄体期気分スコアをL-トリプトファン群は34.5%、プラセボ群は10.4%減少させました。
研究⑤有害事象
1990年、厚生省(当時)は「医薬品副作用情報No.102」において、米国で好酸球増多筋痛症候群(EMS)が多数報告され、全症例がL-トリプトファン含有サプリメントを使用していたことから、注意を呼びかけています。日本でも、L-トリプトファン摂取によると思われるEMSが報告されています。