もくじ
カルシウムの概要
カルシウム(calcium,Ca)は、骨や歯の形成に必要なミネラルです。
カルシウムを補給するサプリメント、栄養補助食品などのほか、飲料や菓子、パンなど、一般の食品に添加されていることもあります。食品添加物(強化剤、製造用剤、イーストフード)として用いられることもあります。
カルシウムは体内で最も量の多いミネラルです。また、カルシウムは神経興奮、筋収縮、血液凝固に重要な必須ミネラルです。99%は骨に存在しますが、残りの少量のカルシウムは体内で細胞内の情報伝達に関与し精神機能においても重要です。
血中カルシウム濃度は厳密に調節されており、長期にわたりカルシウム摂取量や吸収量が減少すると骨粗しょう症のリスクが高まります。乳製品の摂取が少ない日本人では一般に不足しがちな栄養素です。
医療用医薬品では、カルシウム剤、栄養剤などに配合されています。—般用医薬品では、カルシウム剤、ドリンク剤、滋養強壮薬などに配合されています。
カルシウムの含まれた医薬品例
・医療用医薬品:アスパラCA、乳石錠、カルシウム錠YS
・一般用医薬品:カタセ錠、ワダカルシュー厶カルシウム錠YS
「骨の健康が気になる方」に勧められる特定保健用食品の中には、カルシウムの吸収を助けるカゼインホスホべプチドやクエン酸リンゴ酸カルシウムを配合したものがあります。
カルシウムは以下の配合量を満たし、特定保健用食品として許可された場合、疾病リスク低減表示をすることができます
【1日摂取目安量】・上限値:700mg ・下限値:300mg
「この食品はカルシウムを豊富に含みます。日頃の運動と、適切な量のカルシウムを含む健康な食事は若い女性が健全な骨の健康を維持し、歳をとってからの骨粗鬆症になるリスクを低減するかもしれません。」
カルシウムは栄養機能食品の栄養素として認められており、1日摂取目安量を満たした商品については、栄養機能表示が認められています。
【1日摂取目安量】・上限値:600mg ・下限値:210mg
「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です。」
目標量:(男性:18〜29歳)650mg (女性:18〜29歳)600mg
上限量:(成人男性)2300mg (成人女性)2300mg
カルシウムを多く含む食品
カルシウムを多く含む食品としては、乳製品、豆類、豆腐、石灰で処理されたトウモロコシ、アブラ菜科(ブロッコリー、ケール。チンゲンサイ、カラシ菜、カブ、ケール)などが挙げられます。
具体的な含有量の例を挙げると、乳製品(プロセスチーズ:830mg/100g)、魚介類(干しえび:7100mg/100g)、モロヘイヤ(260mg/100g)、がんもどき(270mg/100g)などです。
アメリカのNLEAのへルスクレームの例として「日常的な運動とカルシウムを十分に含む健康的な食事は、若い女性が骨の健康を保ち、歳をとってから骨粗しょう症を発症するリスクを低減するかもしれません」の表示が認められています。
スウェーデンの食品業界自主基準として「推奨量と同等のカルシウム摂取は骨粗しょう症を予防する可能性があります。この食品にはカルシウムが多く含まれています」などの表示が適用されています。
カルシウムの作用メカニズム
カルシウムの効果効能
カルシウムの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「血液凝固、心筋収縮、脳梗塞、動脈硬化、高血圧、低カルシウム血症、子癇前症、コレステロール、制酸薬、下痢、神経伝達、精神安定、テタニー、月経前症候群(PMS)、副甲状腺、腎臓、白血球、食菌、筋収縮、こむらがえり、骨粗しょう症、骨軟化症、骨折、骨密度、くる病、骨成長、大腸がん、虫歯、歯周病、寝たきり」
カルシウムは血液凝固に必要である栄養素です。
カルシウムは心筋を収縮させて心臓を規則正しく働かせ、脳梗塞の予防におそらく有効であろうとされています。
カルシウムは子癇前症の予防にカルシウムの補給は有益である可能性が高いです。
カルシウムは血中コレステロールを下げて動脈硬化や脳卒中を防ぐ効果に関与しており、低脂肪食との組み合わせで、軽度から中等度の高コレステロール血症に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
制酸薬として炭酸カルシウムの経口摂取は有効です。FDA(アメリカ食品医薬品局)では炭酸カルシウムを制酸薬として承認しています。
カルシウムは神経伝達や神経の正常な刺激に必要です。
カルシウムは神経の苛立ちを抑え、精神安定の役目を果たします。テタニー(全身性、とくに四肢遠位筋の強直性痙攣)の予防に効果があるとの報告があります。
カルシウム不足による月経前症候群(PMS)の症状軽減に対する経口摂取の有効性、効果を示唆する報告があります。ただし、PMSに対するサプリメントの効果については不十分な科学的実証しか見い出されないとの報告もあります。
カルシウムは副甲状腺機能低下症に対して用いられる、ホルモン分泌の調節に関与している等の報告があります。二次性副甲状腺機能亢進症におそらく有効です。
腎疾患において、リン酸との結合を目的とする炭酸カルシウムおよび酢酸カルシウムの経口摂取の有効性、効果を示す報告があります。
カルシウムは内血球の食菌効果を助け、白血球やリンパ球の活性化に関与します。
カルシウムは筋肉の収縮弛緩に必要であり、妊娠中のこむらがえりの予防に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
カルシウムはくる病・骨軟化症に対し経口で有効です。
閉経後の女性に見られる骨粗しょう症の予防と治療に、単独あるいはエストロゲン・カルシトニンなど他剤との併用で、カルシウムを経口摂取することの有効性を示唆する報告があります。
カルシウムは胎児の骨成捉、骨密度の増加に対して、母体がサプリメントを経口摂取することの有効性、効果が示唆されています。
カルシウムは閉経後の体重減少時の骨代謝の抑制、男性の骨粗しょう症の治療に対する有効性、効果が示唆されています。
カルシウムは子供の骨量増加に必要です。
カルシウムは大腸がんの予防効果がある可能性があります。
カルシウムは高齢者における歯の損失を低減するのにおそらく有効であろうとみられています。
カルシウムの補給で寝たきりを防げるとの報告があります
老人での介入研究でカルシウム摂取増加で骨量減少と骨折リスクが低減したという報告が数多いです。
カルシウム摂取を増やすと、女性における脳梗塞のリスクを低減させるという複数の知見があります。
骨粗しょう症を防ぐ用量のカルシウムとビタミンDの摂取は、高齢者における歯の保持にもよい効果が見られます。
炭酸カルシウムは胃潰瘍、十二指腸潰瘍、神経性胃炎などに対して制酸薬として使用されてきましたが、この目的に対してはH2ブロッカーが主流となってきています。しかし、胸焼けなどの軽い症状に対してけ今後も炭酸カルシウムが制酸薬として使用されるであろうというレビューが報告されています。
カルシウム欠乏で起こる症状(欠乏症)
カルシウムが不足すると血行と血液の性状に支障をきたし、動脈硬化や高血圧の原因にもなります
過度のカルシウム欠乏により筋肉の痙攀が起きます。
カルシウム欠乏により骨粗しょう症や骨軟化症を起こします。
カルシウム欠乏により子供のくる病を引き起こすとの報告があります。
カルシウム欠乏により虫歯、歯周病になりやすいです。成長期では歯質の低下、あごの骨の発達不良などを引き起こします。
カルシウム欠乏症状として四肢末端と周囲の感覚異常、筋肉の痙攣、腱反射亢進、手足攀縮、声門痙攣、テタニー、痙攣があります。
一般に欠乏の徴候や症状は急激なカルシウム低下時にみられます。
高齢者、妊娠、授乳中の女性、小児、青年、喫煙者に補給が推奨されます。
高タンパク質の食事はカルシウムの排出を促進します。
カルシウムの体内利用率と吸収を低下させる要因
副甲状腺機能低下症、高リン酸塩血症、胃酸欠乏症、吸収不良症候群、脾炎、ビタミンD欠乏、腎不全、マグネシウム欠乏、加齢、シュウ酸(ルバーブ、ホウレンソウなど)、フィチン酸(ふすま・穀物の外皮食物繊維、リン過剰摂取、過剰摂取、過栄養、薬物治療(アルミニウム含の制酸薬・グルココルチコイド・静脈からのマグネシウム投与等)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)。
カルシウム過剰摂取での副作用・毒性
カルシウム過剰摂取での副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
ただし、副作用としては、経口で腸管炎症、げっぷ、腹部膨満が知られています。カルシウムの副作用として、よく便秘が挙げられますが科学的根拠はありません。過剰摂取によって前立腺がんのリスクが増す可能性があるという疫学的結果もあります。
過剰摂取で泌尿器系結石・ミルク・アルカリ症候群(カルシウム過剰症)腎不全の副作用を引き起こす可能性もあります。
過剰摂取(1日2.4g以上)で腎結石の副作用を起こすこともあります。腎機能障害のある人ではこれらの副作用が出やすいといいます。
以下、カルシウムと医薬品等の相互作用
サイアサイド系利尿薬とやや高濃度の炭酸カルシウムとの併用でミルク・アルカリ症候群のリスクが高くなります。
ビタミンDとともに摂取することでカルシウムの吸収を促進します。ビタミンD、副甲状腺ホルモン、カルシトニンで吸収が調節されています。活性型ビタミンDで吸収促進され、高タンパク食、ナトリウム摂取)、リンにより必要量が増大します。
高濃度のカフェイン摂取により、カルシウムの尿中排泄が促進されることがあります。食物繊維に富むある種の食品はカルシウムの吸収を阻害します。
エストロゲンとの併用で、閉経後の女性におけるカルシウムサプリメントの吸収が促進されます。
フルオロキノロン、テトラサイクリンとの併用で、これら薬物とカルシウム双方の吸収が妨げられます。2時間以上間隔をあけて使用することとされています。
レポチロキシンとカルシウムの併用で、その吸収を妨げます。4時間以上間隔をあけて使用することとされています。
アルミニウム塩、マグネシウム塩との併用で、間接的にカルシウムの尿中排泄が促進されることがあるので、長期にわたる高濃度の摂取は避けることとされています。
鉱油(mineral oil)との併用はカルシウムの吸収を低下させることがあるので、長期摂取は避けることとされています。
ジギタリス製剤(強心薬)とカルシウムの併用では、カルシウムの血中濃度が上昇すると、ジギタリス製剤の中毒症状(頻脈、不整脈など)がみられることがあります。
テトラサイクリン系抗生物質、ニユーキノロン系抗菌薬とカルシウムの併用では、薬剤の吸収が妨げられ、十分な効果が得られなくなることがあります。
ビスホスホネート製剤(骨代謝改善薬、骨粗鬆症治療薬)服用中は、カルシウムを積極的に摂ることが勧められます。ただし同時に摂取すると、難溶性キレートが形成され、両者の吸収が阻害されるため、時間をずらして摂るようにします。
活性型ビタミンD3製剤との併用で、高カルシウム血症が現れるおそれがあります(医薬品。また、血清カルシウム上昇を伴った急性腎不全が現れることがあるとして、注意が呼びかけられています。外用の活性型ビタミンD3誘導体製剤についても、高カルシウム血症が報告されており同様の注意が必要です。
フェニトイン、フェノバルビタール、プリミドン(抗てんかん薬)の長期服用により、骨軟化症、くる病、歯牙形成不全が起こることがあります。これはビタミンDの代謝亢進によりビタミンDの作用が減弱したためと考えられますが、カルシウムの吸収も低下する可能性があります。服用が長期に及ぶ場合は、カルシウムやビタミンDの捕給も検討します。
サプリメントとしての過剩摂取(2,500mg/日以上)は高カルシウム血症や賢石症を起こしますが、通常の食事から摂取する場合、起きないとされています。カルシウムサプリメントの摂取により便秘、鼓腸、ガスの滞留を起こす可能性があります。
カルシウムはアテノロール、サリチル酸塩、ビスホスホネート製剤、フッ化物、鉄、テトラサイクリン系抗生物質の吸収を抑制する可能性があります。
研究・エビデンス
研究①大腸がん
大腸がんの予防効果の可能性があり、409名の中年の男女を対象にした調査で、カルシウム補充により対照群と比較して直腸腺腫を25%防いだとのことです。
研究②高血圧
高血圧者と正常血圧者を調べた複数のランダム化比較試験を統合した1件のレビューの結果、カルシウム補充により、わずかですが、収縮期血圧と拡張期血圧を低下することが報告されています。
研究③骨密度
カルシウムの摂取補充を受けた子供や青年を対象にした二重盲検試験で有意に骨密度が増加しました。しかし疫学調查ではカルシウム摂取量と骨折の相関ははっきりしないといいます。国別のカルシウム摂取量と骨折の頻度で比べると、カルシウム摂取量が高い国で骨折が多いという逆の傾向が見られます。これらはライフスタイルの差(高タンパク食(とりわけ動物性)、高ナトリウム食、コーヒーの摂取)も要因として影響しているためではないかと考えられます。
研究④リン酸濃度
100名の透析患者を対象とした8週間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、酢酸カルシウムを摂取した群はプラセボ群と比べて、血中のリン酸濃度が有意に低下しました。
研究⑤妊娠中の摂取
256名の健康な妊婦を対象とした二重盲検試験の結果、妊娠22週目から出産前でカルシウム2gを毎日摂取した妊婦から生まれた新生児は、骨密度が有意に高かったといいます。低所得層に属する87名の妊婦を対象とした試験の結果、妊娠20週目から出産までカルシウムとして1日に300〜600mg摂取した妊婦、およびその母親から生まれた新生児は骨密度が有意に上昇していたとのことです。
研究⑥閉経後の骨密度
60名の閉経後女性を対象とした2年間のオープンランダム化比較試験の結果、炭酸カルシウムを1日2.5g摂取した群は、2年目に骨量および骨密度が有意に増加したとのことです。1975年以降に発表された139の論文のうち50報でカルシウム摂取の骨粗しょう症に対する有効性、効果を示していたとのことです。閉経後女性31名を対象とした6ヶ月間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、カルシウムを1日1g摂取した群は閉経後の体重減少時に血清中の骨代謝回転マーカー、オステオカルシン、副甲状腺ホルモンなどが右意に抑えられました。
研究⑦骨粗しょう症
骨粗しょう症の初期にある男性41名を対象とした2年間の二重盲検ランダム化比較試験の結果、カルシウムを摂取した群は、血中の骨代謝回転マーカー、オステオカルシンが有意に低下していたとのことです。
研究⑧PMS(月経前症候群)
PMS(月経前症候群)である497名の女性を対象とした、二重盲検ランダム化比較試験の結果、炭酸カルシウムを3月経周期の間摂取したところ、月経周期2巡目、3巡目の黄体期における症状スコアが有意に改善しました。33名の女性を対象とした試験でも同様の結果が得られています。P
研究⑨大腸がん
大腸がんを発症して間もない患者930名を対象とした試験の結果、炭酸カルシウムを1日3g摂取した群は、軽度ではあるが有意に再発率が低減しました。30〜62歳の444名を対象とした人ロ研究の結果、ビタミン類と並んでカルシウムのサプリメント摂取が大腸がんの発症と有意な相関がありました。13万人の男女を対象として10年以上の追跡調査を行った結果、食事からのカルシウム摂取量が1日500mg以下の人は、1240mg以上の人に比べて大腸がん発症の割合が高く、摂取量の低い人がサプリメントとしてカルシウムを摂取した結果、リスクが低減しました。
研究⑩高コレステロール血症
軽度〜中等度の高コレステロール血症患者56名を対象とした6週間の二重盲検クロスオーバーRCT(ランダムに比較する臨床試験)の結果、低脂肪・低コレステロール食に加えてカルシウムとして400mgを1日3回摂取したところ、LDLコレステロールが4.4%低下し、HDLコレステロールが4.1%上昇しました。