もくじ
葉酸の概要
葉酸(英 folicacid)は造血に必須な栄養素として知られています。
妊娠中の女性での葉酸欠乏が胎児の神経系に重大な障害をもたらすこと、血中ホモシステイン濃度への関与から葉酸が血管疾患(動脈硬化や動脈血栓)のリスクを減らす可能性があることと、がんとの関わりが示唆されていることなどから、重要度が増しているビタミンです。
葉酸は別名としてビタミンMと称したこともありますが、実際にはほとんど使われていません。
薬品として使われる葉酸
医療用医薬品では、葉酸欠乏症の予防および治療、葉酸の需要が増大し、食事からの摂取が不十分なときの補給、吸収不全症候群(スプルーなど)、悪性貧血の補助療法、葉酸の欠乏または代謝障害が関与すると推定される疾患(栄養性貧血、妊娠性貧血、小児貧血、抗痙攣薬や抗マラリア薬投与に起因する貧血)、アルコール中毒および肝疾患に関連する大赤血球性貧血、苒生不良性貧血、顆粒球減少症に用いられます。
一般用医薬品では、ビタミンB剤、滋養強壮薬、女性用薬、貧血用薬などに配合されています。
医薬品例
・医療用医薬品:フォリアミン錠
・一般用医薬品:ナポリンS
葉酸は下記配合量を満たし、特定保健用食品として許可された場合、疾病リスク低減表示をすることができます。
【1日摂取目安量】
・上限値:1,000μg・下限値:400μg【疾病リスク低減表示】
葉酸はほとんどの自然食品に含まれ、イースト、レバー、肉類(他の臟器を含む)、野菜、果物、穀物、ナッツ、種子に多く含まれます。加熱・加工により葉酸は破壊されます。
葉酸含有量の例
・とりレバー(:1300μg/100g)
・枝豆(320μg/100g)
・ほうれん草(210μg/100g)
葉酸の効果効能
葉酸の効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「造血、貧血、心筋梗塞、腸管潰瘍、神経過敏、抑うつ、健忘症、抗体、妊娠、神経管閉鎖不全、胎児、脳神経、発育、がん、口内炎、舌炎」
適切な量の葉酸を含む健康的な食事は、女性にとって、二分脊椎などの神経管閉鎖障害をもつ子どもが生まれるリスクを低減するとの研究があります。
葉酸は、赤血球の形成を助ける効果があります。
葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する効果があります。
葉酸の摂取目安量
【1日摂取目安量】
・上限値:200μg・下限値:60μg【栄養機能表示】
【1日摂取上限量】
・上限値:1,000μg・下限値:400μg【疾病リスク低減表示】
妊娠時に必須の葉酸
葉酸は比較的食事から摂りにくい栄養素であるため、厚生労働省はとくに妊娠を希望している女性に対し、1日400μgの摂取を呼びかけています。
栄養機能食品の栄養成分のひとつであり、60から200μgの含有で、「葉酸は、赤血球の形成を助ける栄養素です。葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する栄養素です。」の表示が可能です。
疾病リスク低減表示型特定保健用食品として、400μgから1000μgの含有で、「この食品は葉酸を豊富に含みます。適切な量の葉酸を含む健康な食事は、女性にとって、二分脊椎などの神経管閉鎖障害を持つ子どもが生まれるリスクを低減するかもしれません。」の表示が許可されます。
アメリカのNLEAのへルスクレームの例として「妊娠可能な年齢に適切な量の葉酸を日常的に摂取している女性は、神経管欠損症の子どもが生まれるリスクを低減するかもしれません。」の表示が認められています。
葉酸の不足で起こる症状と欠乏原因
葉酸を欠乏させる原因として以下のものが挙げられます。
「アルコール(葉酸の腸肝循環を減少させる)、粗食、呼吸不全症候群、メトトレキサート、トリアムテレン、ペンタミジン、トリメトプリム、ピリメタミン、コルヒチン、他の葉酸拮抗薬、抗痙攣薬(フェニトイン、ジフェニルヒダントイン、プリミドン)、サイクロセリン、メトホルミン、過剰のリジンやメチオニンの摂取、ジヒドロ葉酸還元酵素の先天的欠損、メチルテトラヒドロ葉酸トランスメチラーゼやフォルミノトランスフェラーゼ、コンジュガーゼ欠損やコンジュガーゼ阻害薬、肝疾患、妊娠、授乳、透析、過造血、慢性の剝脱性皮膚炎」
- 葉酸欠乏症は神経過敏、忘れっぽさ、敵愾心、パラノイア(偏執症・妄想症)を起こします。
- アルコールの多飲、胃全摘、抗てんかん薬の長期服用などにより、葉酸欠乏をきたした例が報告されています。
- アモバルビタール、フェノバルビタール(抗てんかん薬)の連用により、葉酸代謝異常によると思われる巨赤芽球性貧血が起こることがあります。巨赤芽球性貧血の症状には、衰弱、疲労。呼吸困難、下痢、食欲不振、失神、頭痛、動悸、舌炎があります。
- 妊娠中に、フェノバルビタール、カルバマゼビン、フェニトインなどの抗てんかん薬を服用して、葉酸低下が生じたとの報告があります。
- イオン交換薬(高脂血症治療薬)の服用により、葉酸の吸収阻害が起こることがあります。服用が長期に及ぶ場合は、葉酸の補給を検討します。
- サラゾスルファビリジンの服用で、大赤血球症、汎血球減少をきたし、葉酸欠乏症を起こすおそれがあります。
- スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)は、葉酸欠乏または代謝異常のある患者には慎重に投与することとされています(葉酸欠乏を悪化させ、巨赤芽球性貧血を起こすことがある)。
- スルファドキシン-ピリメタミン(SP合剤)は、葉酸欠乏に基づく巨赤芽球性貧血の患者への投与は禁忌とされています(症状が悪化することがある)。葉酸欠乏または代謝異常のある患者には慎重に投与することとされています(巨赤芽球性貧血を起こすことがある)。
- クロラムフェニコール、コレスチラミンやコレスチポル(胆汁酸吸収剤)との併用は、葉酸の効果を減ずるおそれがあります。
- パンクレアチン(滕臓酵素)やスルファサラジンなどの薬剤との併用は葉酸の吸収を阻害するおそれがあります。
- 葉酸と併用するとがん化学療法のメトトレキセートは、効果を減じるおそれがあります。しかし、リウマチ性関節炎と、乾癬治療へのメトトレキセートの使用では、高用量の葉酸摂取は効果を減じることなくメトトレキセートの副効果を減少させる可能性があります。
- ピリメタミン(抗マラリヤ剤)と葉酸の併用は、薬剤の効果を減じるおなどそれがあります。
葉酸の副作用・毒性
葉酸の副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
過剰摂取など経口で、適切に使用する場合、ほぼ安全です。妊娠中及び授乳中でも経口で適切に摂取する場合、ほぼ安全です。
葉酸は1日1000μg以下では一般的に安全です。通常食事から摂れる葉酸は1日200μgです。
葉酸の過剰摂取(上限の1000μg以上)により発熱、全身倦怠等、蕁麻疹、紅斑、かゆみ、呼吸障害、睡眠パターンの変化、鮮明な夢、被刺激性、興奮性、過度の活動性、混乱、判断カの衰え、発作の頻度上昇、精神病的な行動の悪化、食欲不振、悪心、吐き気、腹部の膨張、鼓腸(ガスがたまること)、口腔内の苦味、皮膚のアレルギー反応、、むくみ、亜鉛の欠乏などが報告されています。
大量の葉酸摂取はまたビタミンB12欠乏症の人では神経症を進行させたり悪化させるおそれがあります。
葉酸で発疹、紅斑、かゆみ、倦怠感、気管支痙攣などのアレルギー反応が起こるのはまれです。
静脈注射で葉酸を投与された患者で1例アナフィラキシー反応が報告されています。
診断未確定の貧血に対しての葉酸の使用は、致命的な貧血の兆候を隠してしまうので、貧血の疑いのある患者は、自己治療しないようにすべきでしょう。葉酸は悪性貧血をマスキングすることがあるので、診断の下っていない貧血に対しては使用しないよう注意しましょう。
葉酸とビタミンKあるいは亜鉛との併用摂取を長期間続けると、それらの体内濃度を低下させることがあります。
発作障害を持つ場合、葉酸の大量摂取で発作が悪化することがあります。
研究・エビデンス
研究①胎児の神経管閉鎖障害などの発症リスク
欧米を中心とした疫学調査の結果、妊娠可能な年齢の女性での葉酸摂取が、胎児の神経管閉鎖障害などの発症リスクを低減することが報告されたため、2000年、厚生省(当時)は、葉酸の積極的な摂取を呼びかけました。現在は、妊娠を希望する女性に対しては、食事からの葉酸摂取に加えて、いわゆる健康食品から1日400μgの葉酸を摂取することが勧められています。ただし、高用量の葉酸摂取はビタミンB12欠乏の診断を困難にするので、医師の管理下にある場合を除き、葉酸摂取量は1日あたり1,000μgを超えるべきではないことを、必ずあわせて情報提供することとしています。
研究②うつ病・統合失調症
対象:葉酸濃度が欠乏〜境界値の患者41例(うつ病24例、統合失調症17例)
方法:メチル葉酸(15mg/日)を補助的に6カ月間投与。
結果:プラセボに比べ3カ月と6カ月で有意に臨床成績の平均スコアを改善しました。
研究③大腸がん
悪性新生物DNAのメチル化、修復に関与することから、がんとの関わりが示唆されているとの報告があります。がんの発生率、前がん状態からがんへの進行のリスクを減少させる可能性があるといいます(直腸、結腸での報告が主である)。
25,000名以上を対象にした疫学調査では、葉酸摂取量の増加が直腸がんにおける腺腫性のポリープの発生率を下げました。大腸がんに対する補助療法のー環としての葉酸の使用は有益である可能性が高く、経口で、大腸がんのリスク低減に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
14,407名を対象として葉酸の摂取と大腸がんとの相関性を調べた20年間の追跡研究の結果、葉酸を1日に249μg以上摂取した男性では大腸がんの発症リスクが有意に低減しており、用量相関性が認められたといいます。女性における相関は有意差が出ませんでした。
88,758名の女性を対象とした前向きコホート研究(追跡調査)で16年間追跡した結果、大腸がんを発症したのは535名でした。葉酸の摂取量が1日200μg以下の人と400μg以上の人で大腸がん発症の相対危険度は、大腸がんの家族歴がない場合0.81、家族歴がある場合0.48であり、家族歴がある人の発症リスクが葉酸の摂取によって有意に低減していました。
研究④リウマチ
19〜78歳の慢性関節リウマチ患者79名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、葉酸を1週間に5mgあるいは27.5mg摂取したところ、メトトレキセートの治療効果に影響は与えなかったが、葉酸摂取により同薬剤の副効果が低減しました。
成人のリウマチ患者におけるメトトレキセート治療の副効果と葉酸摂取の相関を研究した7件の二重盲検ランダム化比較試験をメタアナリシスした結果、メトトレキセートの粘膜障害および消化管障害が葉酸の追加摂取により79%低減しました。
研究⑤虚血性心疾患
60〜85歳の女性30名を対象としたランダム化比較試験の結果、低葉酸食を7週間食べた後に、葉酸を1日200mgあるいは415rag添加した食事を摂取したところ、低葉酸食期間中は血中ホモシステイン濃度が有意に上昇し、その後葉酸を415mg添加した場合に血中ホモシステイン濃度は回復しました。
151名の虚血性心疾患患者を対象とした3ヶ月間のランダム化比較試験の結果、葉酸を1日に0.2、0.4、0.6、0.8、1mgいずれかの用量で摂取したところ、血中ホモシステイン濃度が減少し、0.8mgの摂取で効果が最大でした。摂取前の血中濃度が高い被験者ほど効果が高かったといいます。
研究⑥うつ病
127名のうつ患者を対象とした10週間のランダム化比較試験の結果、葉酸500μgと抗うつ薬フルオキセチン20mgを併用したところ、とくに女性で血中のホモシステイン濃度が有意に減少し、うつ症状スコアが有意に改善、薬剤との相乗効果が認められました。
123名のうつ患者のうち41%が葉酸欠乏気味であり、その患者らを対象とした6ヶ月間のニ重盲検ランダム化比較試験の結果、従来の治療薬に加えてメチル葉酸を1日15mg摂取したところ、プラセボを併用した場合と比べて相乗効果が認められました。
研究⑦白斑
白斑患者15例の非対照試験では、葉酸(2mg、1日2回)、ビタミンB12(100mgの筋注、2週間毎日)、ビタミンC(500mg、1日2回)の1〜2年間の同時投与は有効とされています(ただし投与量は患者によって異なるので、平均値で示されている)。
6例の患者で白斑は完全に治癒(3カ月から症状の改善が認められた)し、2例は80%の治癒でした。
研究⑧男性不妊
65例の不妊男性の非対照試験では、フォリン酸(葉酸に類似した物質)(15mg/日、3カ月)は有意に精子の数と生存率を増加させ、円形細胞を減少させました。治療後6カ月以内に24例が妊娠に至ったといいます。
葉酸の作用
ビタミンB群の1つである葉酸は、プテロイルグルタミン酸からなり、プテリジン環の還元レべルによって数個のグルタミン酸基を結合します。体内葉酸は多様で不安定な形で存在し、しばしばペプチドと結合します。
葉酸(プテロイルグルタミン酸)は安定な薬剤形態にあり、フォリン酸(N5-フォルミルテトラヒドロ葉酸)は活性代謝産物です。
葉酸の補酵素として、炭素転移での代謝反応に重要です。葉酸はビタミンB12とともにホモシステインのメチオニンへのメチル化やs-アデノシルメチオニンの合成に不可欠な物質です。葉酸はまたプリン合成、DNA合成の調節に必要とされます。