チロシンの概要
チロシン(tyrosine)は動物性タンパク質に広く含まれ、生体内で神経伝達物質や甲状腺ホルモンの原料となるため睡眠やホルモンに関連する重要な役割を持つアミノ酸のひとつです。
毒性の少ないアミノ酸で、体内で合成可能ですが、必須アミノ酸であるフェニルアラニンから合成されるため条件つき必須アミノ酸と位置づけられています。Fisher比を規定するアミノ酸のひとつです。
食品中では、タンパク質の構成アミノ酸として、牛肉サーロイン赤身(730mg/100g)、さけ(700mg/100g)、また遊離の形でタケノコ(690mg/100g)などに多く含まれます。
医薬品ではアミノ酸製剤、栄養剤などに配合されています。アミノ酸を補給するサプリメントに配合されていることがあります。食品添加物(調味料、強化剤)として用いられることもあります。
精神的疾患に有効であるとするエビデンスはほとんどないものの、ストレス下における精神活動を改善する効果も指摘されています。
チロシンは中性アミノ酸
チロシンの効果効能
チロシンの効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「甲状腺ホルモン、脳、行動障害、精神異常、覚醒、抑うつ、パーキンソン病、ナルコレプシー、依存症、アルツハイマー病、統合失調症、食欲、ED、勃起不全、性衝動抑制、心血管疾患、フェニルケトン尿症、知能障害、情報伝達、日焼け、慢性疲労症候群(CFS)、ストレス」
チロシンは心血管疾患に対して効果があるとの報告があります。
チロシンは神経伝達物質であるドーパミン、ノルアドレナリン(ノルエビネフリン)、アドレナリン(エピネフリン)の原料になり、脳の機能を活性化させる効果があるといわれ、多動性障害、パーキンソン病、ナルコレプシー(突発性睡眠)、睡眠不足後の覚醒の改善効果が報告されています。
チロシンはアルコールやコカイン依存症、アルツハイマー病、統合失調症に対して用いられる、食欲抑制剤として用いられる等の報告があります。
チロシンはED(勃起不全)、性衝動抑制に効果があるとの報告があります。
チロシンは甲状腺ホルモンの原料となる、フェニルケトン尿症(PKU:前駆体のフェニルアラニンをチロシンに変換するフェニルアラニン水酸化酵素の遺伝的欠損による疾患)に対して用いられているとの報告があります。
チロシンは副腎髄質ホルモンであるアドレナリンの原料となる、皮膚や髪の黒色色素であるメラニンの原料になる、日焼け剤として用いられる等の報告があります。
チロシンは母乳に含まれるため、乳幼児では必須なアミノ酸と考えられます。
チロシンの欠乏からくる甲状腺ホルモンの欠乏により食物の正常な代謝ができず、脳の機能や行動にも障害(子供では知能障害)が起こるという報告がありますが、その科学的根拠は不明です。
タンパク質中のチロシンはリン酸化され、情報伝達に重要な役割を果たします。
チロシンは慢性疲労症候群(CFS)に対して効果が期待されているとの報告があります。
チロシンはフェニルケトン尿症(PKU)患者のためのタンパク質サプリメントの成分です。現在はPKU患者にはタンパク質100g中チロシン6g含有が推奨されています。
チロシンは認識作業による疲労とストレスを軽減する効果がある可能性があります。
チロシンの副作用・毒性
チロシンの副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
適切に用いて短期間ならば、副作用や毒性等なく経口でおそらく安全であろうと考えられています。
臨床試験ではチロシンは150mg/kg、3ヶ月間まで安全に使用できたとの研究があります。
チロシン経口摂取の副作用としては、吐き気、頭痛、疲労感、胸焼け、関節痛などがあげられます。
レポドパ(L-ドーパ)とチロシンの併用で、吸収の際の競合効果によりその効果を減弱させるおそれがあるので、少なくとも2時間は離して使用することとされています。
甲状腺ホルモン剤とチロシンの併用でその効果を増強させるおそれがあります。また理論的には甲状腺機能亢進症の人では症状を悪化させることが考えられるので、摂取しないよう注意することとされています。
チロシンは臨床検査における甲状腺刺激ホルモン値にも影響を与えることが考えられます。
ハーブやサプリメント、食品とチロシンの相互作用は報告されていません。
研究・エビデンス
研究①睡眠不足後の覚醒改善効果
二重盲検ランダム化比較試験の結果、睡眠不十分の約3時間後の精神活動検査における能力の持続時間が、チロシン150mg/kg摂取により延長しました。
研究②ストレス
男性被験者8例にチロシン150mg/kgを投与した結果、チロシンは寒冷ストレス(通常短期の記憶カを低下させる)曝露後の記憶カテストの結果を改善しました。また、チロシンは冷水ストレスに曝露した動物の攻撃性を正常レベルに回復させ、急性ストレスに対する有害反応を減少させました。寒冷ストレスに曝露したラットの行動を改善し、ストレス性高血圧ラットの血圧を下げ、心室細動に対するイヌの心臓の脆弱性を低下させました。