亜鉛の概要
亜鉛(zinc,Zn)は、味覚を正常に保つのに必要な栄養素です。亜鉛は、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。亜鉛は、蛋白質・核酸の代謝に関与して、健康の維持に役立つ栄養素です。
亜鉛は遺伝子発現やタンパク合成、免疫機能にも深く関与しています。近年、遺伝子発現の制御や神経機能の調節における亜鉛の重要な役割が解明されつつあります。
亜鉛は体内で、アルコールデヒドロゲナーゼ等の脱水素酵素や、DNAポリメラーゼ等の多くの酵素に含有され、酵素の触媒部位を形成したり、タンパク質構造を維持することで、生体内の生化学反応に関わります。
亜鉛は銅の吸収を阻害することが知られています。
亜鉛が多く含まれる食品
亜鉛は肉、甲殼動物、全粒粉、種、ナッツ、マメ科植物、野菜、卵、牛乳などに多く含まれます。
具体的な含有量としては、牡蛎(13.1mg/100g)、レバー(豚レバー:7mg/100g)、和牛肩赤身肉(5.75mg/100g)などです。
亜鉛の素材として、保健機能食品にはグルコン酸亜鉛の使用が認められています。ただし、当該食品の1日摂取目安量に含まれる亜鉛の量が15mgを超えないようにしなければなりません。
医療用医薬品では栄養剤に配合されているほか、ポラプレジンク(プロマック)は亜鉛含有胃潰瘍治療薬として知られます。
亜鉛を含む医薬品の例
医療用医薬品:プロマック、ラコール、亜鉛華軟膏、ミネラリン注
医療用医薬品・一般用医薬品とも、硫酸亜鉛が点眼薬に、酸化亜鉛が皮膚治療薬(外用)に用いられます。
栄養機能食品の栄養素として認められており、1日摂取目安量を満たした商品については、栄養機能表示(味覚を正常に保つのに必要な栄養素です。亜鉛は、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。亜鉛は、蛋白質・核酸の代謝に関与して、健康の維持に役立つ栄養素です)が認められています。
[1日摂取目安量]・上限値:15mg ・下限値:2.1mg
亜鉛の作用メカニズム
亜鉛の効果効能
亜鉛の効果効能として報告されているもの一覧を紹介します。
「過酸化脂質、高血圧、鎌状赤血球貧血、貧血、心保護、胃腸障害、下痢、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、中枢神経、抑うつ、ヒーリング、拒食症、アルツハイマー病、ダウン症、免疫、胸腺萎縮、、催奇形性、精子、生殖能カ、前立腺肥大、ED、勃起不全、耐糖能低下、皮膚障害、傷の治癒、脱毛、爪形成、静脈性下肢潰瘍、骨形成、骨粗しょう症、知覚過敏、味覚、発育、成長、感染症、かぜ、上気道感染、ハンセン病、運動能カ向上」
亜鉛欠乏症の人における鎌状赤血球貧血に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
過酸化脂質からの防御に関わっている、高血圧に用いられている、地中海貧血(遺伝的へモグロビン合成障害)に効果がある等の報告があります。
胃潰瘍の治療および予防に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
潰瘍性大腸炎に効果があるとの報告があります。
神経系 ・中枢神経系の機能に必須です。
欠神経性食欲不振症(拒食症)に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
心の傷へのヒーリング効果がある、アルツハイマー病、ダウン症に用いられる等の報告があります。
亜鉛の存在により老化リンパ球のサイトカイン産生を促進するなど、実験結果が多数報告されています。
免疫システムの多方面に影響を与え、必須である、免疫機能を向上させる目的で使用される等の報告があります。
良性の前立腺肥大、男性の不妊症、ED(勃起不全)に効果があるとの報告があります。
糖尿病に効果があるとの報告があります。
血清亜鉛濃度の低い症例における静脈性下肢潰瘍の治療に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
骨形成に関わり、骨粗しょう症に効果がある等の報告があります。
味覚減退に対する有効性、効果を示唆する報告があります。
Znフィンガーのリガンドとして転写調節タンパク質の構造維持・DNAとの相互作用に関わり、細胞の分化・増殖に関わっている、小児の発育に関係する等の報告があります。
成長不良の新生児において、成長促進および健康向上の有効性、効果が認められています。
かぜの罹患期間を短縮するのにおそらく有効ですが、上気道感染症に対する亜鉛(グルコン酸塩)の有益性は不明です。
免疫を高めることにより発展途上国での急性の下痢やマラリアや呼吸器感染を減少させる効果があります。
ハンセン病に対して、医薬品との併用摂取の有効性、効果を示唆する報告があります。
運動能カを向上させる効果があるとの報告があります。
成人がグルコン酸亜鉛または酢酸亜鉛のトローチ剤(亜鉛として9-24mg含有)を摂取すると、かぜの症状期間が有意に短縮されることがわかっています。この場合、症状が出てから48時間以内にトローチ剤の摂取を始め、日中は2時間おきに摂取する必要があります。
亜鉛が欠乏すると起こる症状(欠乏症)
亜鉛が欠乏すると免疫機能が低下します。例えば亜鉛欠乏により胸腺萎縮、ヘルパーT細胞の機能低下、NK細胞の活性低下、骨髄内B細胞の減少がおこります。
亜鉛欠乏で催奇形性の危険があります。男性ホルモンの合成に関わり、精子形成を活発にするため、不足すると思春期では性成熟が遅れ、成人では生殖能カが衰えて、不妊の原因になったり、性機能障害を起こしたりします。
インスリンの構成要素で、亜鉛が欠乏すると耐糖能低下を引き起こします。不足すると糖尿病の引き金となり、糖尿病性の壊疽の悪化にもつながります。
亜鉛が欠乏すると脱毛や爪の異常を引き起こします。欠乏すると皮膚障害や、傷の治りが遅くなります。
亜鉛欠乏により知覚過敏、味覚障害を引き起こします。
亜鉛欠乏により成長障害を起こします。
亜鉛欠乏の原因は不十分な食事摂取、セリアック病、膵機能不全、炎症性腸疾患、吸収不良、絶食、熱傷、糖尿病、ケトアシドーシス、利尿薬投与、腎損傷。肝疾患、鎌状赤血球貧血、ポルフィリン症、キレート療法、慢性貧血、寄生虫、透析、剝脱性皮赝炎、過剰発汗などがあります。
亜鉛欠乏疾患には性腺機能低下小人症症候群(成長遅延、貧血、味覚と嗅覚の変化。創傷治癒カ低下、肝睥肥大)と腸性肢端皮虜炎(脱毛症、過栄養、潰瘍性皮膚、慢性下痢、筋萎縮により特徴づけられる遺伝性疾患)などが挙げられます。
亜鉛の過剰摂取による副作用・毒性
亜鉛の過剰摂取による副作用・毒性などの危険性は以下の通りです。
亜鉛80mg/日と銅2mg/日の併用で、6年間副作用なしに使用できたという報告もありますが、過剰摂取は安全でありません。サプリメントの450-1600mg/日の慢性摂取で鉄芽球性貧血が起こります。硫酸亜鉛10-30gは成人の致死量です。
過剰症により神経症状、吐き気、嘔吐、腎障害、免疫障害、上腹部痛、消化管過敏症、水様便、めまい、HDL-コレステロールの低下、低銅血症などの副作用が起こるおそれがあります。その他の毒性としては、かぜ様の中枢神経症状(発熱、咳、無気カ、倦怠感、神経障害)などの副作用があげられます。
小児においても適切に用いれば経口でほぼ安全です。経口で摂取基準以下ならば安全ですが、基準量は年齢によって異なります。
許過剰摂取容量よりも高摂取は鉄芽球性貧血および銅欠乏症が起こりやすくなり、恐らく安全でないと思われます。
妊娠中、授乳中においても適切に用いれば経口でほぼ安全ですが、上限値以上の摂取は安全でありません。妊娠後期に大量摂取すると未熟児産や死産の原因となるので注意が必要です。また授乳中に大量摂取すると、乳児の銅欠乏症が起きることがあります。
アルツハイマー病に亜鉛の蓄積が関わっている可能性があります。
日常的に亜鉛を大量に摂取していると、良性の前立腺肥大になるリスクが高まる可能性があるという知見があります。
カプトプリル、クロラムフェニコール、シスプラチン、テトラサイクリン、フルオロキノロン類、ベニシラミン、ある種の利尿薬などの医薬品との相互作用があります。
ふすま、フィチン酸、カルシウム、リンを多く含む食品との同時摂取は、亜鉛サプリメントの吸収を阻害(キレート化)すると考えられます。
亜鉛アレルギーの人には禁忌です。
先天性へモクロマトーシスのホモ接合体の患者には注意が必要です。HIV感染患者は亜鉛を大量に摂取すると生存期間が短縮するという実証データがあるので禁忌です。緑内障患者は亜鉛含有の点眼薬の使用を避けるか、注意して使用するようにしましょう。
吸収不良(クローン病、短腸症など)の場合は亜鉛の吸収が低く、尿中排泄が高くなるので亜鉛欠乏症になるおそれがあります。リウマチ患者は亜鉛の吸収が低い傾向にあります。
長期にアルコールを多量に摂取していると、亜鉛の吸収が阻害され尿中排泄が高まる傾向にあります。
研究・エビデンス
研究①味覚・嗅覚
唾液酵素の一種が不足しており味覚や嗅覚が低下している患者18名を対象としたオープン試験の結果、亜鉛100mgを4〜6ヶ月間摂取したところ、味覚、嗅覚が改善し、味蕾の形状が正常に回復しました。放射線治療を受けているがん患者18名を対象としたランダム化比較試験の結果、硫酸亜鉛45ragを1日3回摂取したところ、放射線照射による味覚減退が有意に改善されました。
研究②鎌状赤血球貧血
鎌状赤血球貧血の患者130名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、硫酸亜鉛220mgを1日3回摂取したところ、1.5年間に発作を起こした頻度がプラセボ群に比べて有意に低下しました。亜鉛欠乏症の人を含む鎌状赤血球貧血患者32名を対象とした3年間のランダム化比較試験の結果、酢酸亜鉛として亜鉛を1日50〜75mg摂取したところ、亜鉛摂取期間に依存してインターロイキン2の産生が上昇し、鎌状赤血球性クリーゼや入院の頻度が減少しました。
研究③胃潰瘍
非ステロイド系抗炎症剤による胃潰瘍の既往歴がある276名を対象としたランダム化比較試験の結果、Zincacexamate(ZAC)を摂取した群はプラセボ群と比べて、薬剤由来の胃潰瘍、十二指腸潰瘍の発症が有意に低減しました。13件のランダム化比較試験(総被験者数757名)をメタアナリシスした結果、消化性潰瘍に対してZACはプラセボよりヒトでのも有意に効果が認められ、その効カはH2ブロッカーと同等でした。
研究④拒食症、うつ症状
35名の神経性食欲不振症(拒食症)の女性を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、BMIが10%増加するまでグルコン酸亜鉛1日100mgあるいはプラセボを摂取したところ、亜鉛摂取群はブラセボと比べてBMIの増加率が有意に高かったといいます。拒食症患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の結果、拒食症患者は血中の亜鉛濃度が低かったですが、亜鉛をサプリメントとして1日50mg摂取したところ、うつ症状や不安が有意に改善しました。
研究⑤静脈性下肢潰瘍
静脈性下肢潰瘍の患者32名を対象とした試験の結果、硫酸亜鉛を最高で1日660mg摂取したところ、もともと血清中の亜鉛濃度が低かった患者で症状が有意に改善しました。ただし、静脈性下肢潰瘍に対する亜鉛サプリメントの摂取について良好な科学的有効性、効果は見出せなかったという試験もあります。
研究⑥妊娠中の亜鉛摂取
健康な低亜鉛状態の妊娠女性580例に方硫酸亜鉛(25mg/日、全例が妊娠19週から出産まで)を投与。全例が亜鉛を含まないマルチビタミン/ミネラルを服用していました。その結果、プラセボ乳児群と比較して、亜鉛を投与した乳児群は出生時体重と頭周囲が有意に上回っていました。
研究⑦上気道感染症(風邪)
複数のランダム化比較試験から、上気道感染症患者にグルコン酸亜鉛または酢酸亜鉛が有益であるという明確な実証は見い出せなかったという研究もあります。